いまさっき思ったこと

あとで読み返したときになにかが生まれるかもしれないし、生まれないかもしれないけど、それはそれでいい

いつからマーケティングは嫌われ者になったのか

一昨日、ひさしぶりにマーケティングについての講演をしてきました。
会場がちょっと大学の教室っぽいところで余計な緊張と興奮が襲ってきましたけど、本人的には満足のいく話ができたと思っています。時間はちょびっとオーバーしたけど。

今回は基礎講座という業界新人向けのセミナーだったので、初心者向けの内容を用意したのですが、自分にとっても基本を振り返るいい機会になりました。

たとえば「マーケティングとはなにか」について。
あなたにとって「マーケティングとは○○である」を言語化できますか?

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上記の4つの定義はぼくの歴代の定義です。
数年ごとに再考してアップデートしてるんですけど、過去の自分の定義を読み返すとなんともこっぱずかしいですね。

とくにふたつ目。「利益を最大化」じゃなくて「極大化」なんて、いかにもマーケティングをかじった程度のやつが調子に乗ってドヤってる感じがします。ほんと恥ずかしい。

ここにいろんな人の定義を置いてるので参考にしてください。

マーケティングを体系だって理解しようとするのがまちがい

それにしてもこれからマーケティングをはじめる人は覚えることがいっぱいあるのでほんとうに大変ですよね。
ぼくがマーケティングの仕事についたのは1999年だったから、当時はSEOすら確立してなかったし(fontカラーを背景色と同じにするようなスパム行為は当時からあったね)、リスティング広告なんて存在すらしてなかった。

そもそも「マーケティング」って言葉自体が専門用語として認識されていて、なにやってるのか理解してもらえなかった。まあいまも正確に理解してもらえてるとは思わないけど、みんながマーケティングという言葉に拒否反応を示さず、それこそ「ヒルナンデス!」のワンコーナーになるくらい一般名詞化してきてます。
(「超限定マーケティング」という「クイズ100人に聞きました」のパクリコーナーがあります)

それがいいかどうかはさておき、たかだか15年でこの変化です。

そして、ぼくらの世代が幸せだったのは、SEOにせよリスティング広告にせよアフィリエイトにせよ、出されたものをひとつずつ食べていけば、結果的にいろんな知識を身につけることができたってことです。ムダも多かったけど。
でもいまから勉強する人はすでに膨大なお皿がテーブルの上に並んでいるわけで、これを体系だって理解しようとするとまあ大変。

「思いつくまま書き出してください」ってお願いして、さらにそれを仲間分けしてもらいました。

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多いですよねえ。
そもそもメインディッシュもデザートも同じテーブルに載ってるし、調味料とか調理器具とかレシピ本みたいなのまでごっちゃになってる。

マーケティングを学ぼうとする人が絶望するのは、これをちゃんと分類して体系だって理解しようとするからです。無理だから。

だから「なにをやろうとしているのか」、それは購買行動プロセスのどの部分の課題を解決するものなのかだけを考えたほうがいいです。

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もちろんこれにしてもざっくりしていて、個別の事例では別の場所にプロットされるけど、意識をするならこっち。

  • 自社のマーケティング上の課題はどこにあるのか(なぜ売れないのか)
  • いま目の前にある施策や考え方はその課題を解決できるのか

この連立方程式を解くのが、マーケティングを仕事にするということです。

セミナーで他社の成功事例を聞く際も、代理店の営業を受ける際も、この点をしっかり意識しておけばダマサれなくなるでしょう。
抱えてる課題の異なる企業の事例なんて聞く必要ないのです。

マーケティングの教科書はもう古い

初心者向けのマーケティング本は古い本が多いです。読み継がれてるから名著なわけで、それは当然です。
たとえばぼくがこれまでいろんな人にオススメしてきた恩蔵先生の『マーケティング』(日経文庫)もいまから10年以上前の本です。

マーケティング (日経文庫)

マーケティング (日経文庫)

 

こうした本は基本を学ぶには十分なんですけど、いまの市場環境に沿った内容かというとそうでもありません。たとえば「マーケティングの4P」とか。
どう考えたっていまは「Price」の重要性がほかの3つより大きいです。

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もちろん「ぜんぶ大事」を否定するわけじゃないです。
だけどおしゃれなCMを流したり、かっこいいパッケージにリデザインするよりも「安くしたほうが売れる」という現実も正しく認識すべきですよね。

ちょうど先日、ファーストリテイリングの柳井会長が「ユニクロ」が採用した高級路線を戦略ミスと認め、即座に値下げを実施するとインタビューに答えてましたが、製品(Product)での差別化がいかにむずかしくなっているか、その結果としてわかりやすい価格(Price)の差に消費者が敏感に反応することのひとつの例ですね。

個人的にはこうした状況をいいことだとは思いませんし、過当競争がつづけば最終的にぼくらにそのツケがまわってくるのでむしろ反対の立場ですが、現状認識としては認めざるをえないかなと。

だから何かの施策を考える際には「それって値下げするよりも効果あんの?」って自問しなきゃいけないわけで、でもそんなことは書いてないんです。
こういう補足をくわえた初心者本を誰か書けばいいと思うんですよねえ。

AISASの頃までは変化に対応してたよね

『ホリスティック・コミュニケーション』で電通の杉山さん、秋山さんが「AISAS」を提唱したのが2004年ですが、この頃って「マーケティングも変わらなきゃ、いまの環境に対応しなきゃ」って空気がありましたよね。

ホリスティック・コミュニケーション

ホリスティック・コミュニケーション

 

ネットの普及によって、従来の「AIDMA」だけでは説明つかない購買行動が見られるから、新しいモデルで捉え直してみようと。

セミナーではこういう話をしました。

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だけどこの10年はすぐに枝葉の話になっちゃって、全体的な――まさにホリスティックな――話は起きてません。消費者の趣味嗜好が細分化したのでむずかしくなったということかもしれないけど、ほんとうにそうなんですかね。

インバウンド・マーケティング」はいいとこついてると感じたんだけど、それが似て非なる「コンテンツ・マーケティング」に言い換えられていったように、ぼくたちマーケティングに携わる人間が「消費者を理解する」というむずかしくてめんどくさい話から逃げて、「○○をやればウハウハ」という楽な手段の話にばっかり群れちゃってるんじゃないかな。

たとえば「検索しない消費者」とか、AISASでも説明つかない購買行動って生まれてますよね。あるいは「購買欲そのものが低い消費者」とか。
彼らがモノを買うときにどういうステップを踏むのか、ぼくたち自身の行動も振り返ってみて整理すると有意義だと思うんだけど。

電通が出してきた「SIPS」はこのへんを説明しようとしてた気もしますが、いまいちしっくりこなかったので定着しませんでしたね。

じゃあお前がやれよというのはそのとおりなので、ぼくもいろいろ考えてはいるんです。
企業がお客さんと持続的で良好な関係を築くことができれば、他社・他製品と比較検討されることなく買ってもらえるのでそのぶん利益が生まれて、その利益をさらなる関係性の強化にまわせるんじゃないか、とか。

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これは新しいモデルではなくて、購買行動プロセスというものがそもそも他社との競争下にあることを前提としているので、そこからいかに逃れるかを考えてるんですけどね。

マーケティング≒スパム、マーケティング≒不誠実になっている現実

マーケティングが専門用語でなくなったのと同時に、否定的なイメージで語られることが増えましたよね。

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セス・ゴーディンが「マーケティングの大半は、じつはスパムだ」と喝破したのは1999年ですけど、当時はリターゲティング広告もソーシャルメディアもなかったし、プッシュ通知もありませんでした。
状況としてはどんどん悪化しています(メールについてはSPAMフィルタ機能の進化によって当時よりは改善されてるかもしれない)。

そして上述したように「価格」に敏感な消費者に選ばれるために企業はいろんな施策に取り組んでいます。

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仕事である以上、結果を出さなきゃいけない以上、気持ちはよくわかるんですけどね。
売上を伸ばしつつ、利益も出そうと思ったら、どこかにしわ寄せがいくわけで、新規顧客を優遇すれば、既存顧客はないがしろになっちゃいます。

それでいいんだっけ?

目先の売上を求めるあまり、何かを失ってないですか。

そりゃこんなことをつづけてたら、マーケティングにいい印象を持たれないはずですよ。

マーケティングの汚名返上をしなきゃいけない

これもマーケティングの教科書にはかならず載ってる「じょうごモデル(マーケティングファネル)」ですけど、これって迷惑がられることを前提にしてますよね。

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みんなが「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」で乱射してて、こんなに迷惑な話はありませんよね。

かつてぼくが「入荷お知らせメール」を考案したとき、多くの方はすすんで登録してくれたし、とても喜ばれました。
同じように大量のメールを送っているのに反応がぜんぜんちがうんですよね。

マーケティングはもっと喜ばれるものでなきゃいけません。

少なくとも「べつになくてもいいけど、ないよりはあったほうがいい」くらいの位置まで地位を回復したいものです。

ぼくはセミナーのまとめとして「Webマーケティングの本質はインターネットの力を味方につけることです」と書きました。

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ぼくたち自身もひとりの消費者である以上、自分が生きるこの世界をいまより少しでもマシにするためにひとり一人が浄化の意識を持ちたいし、スパムだらけの世の中だからこそ「スパムやめたっ!」って企業がちゃんと評価されたらいいですよね。

マーケティングを嫌われ者にしちゃかわいそうですよ。

 

 

[追記]
似たようなことをだいぶ前に書いてた……(ぼくの3時間がorz)。

[さらに追記]
90分のセミナーの内容を部分的に抜き出してるだけなので、言葉が足りてないところはあるかと思います。
時間があれば「最愛戦略」について講演した際のスライドもあわせてご覧ください。

おもしろき こともなき世を おもしろく すみなしものは 心なりけり