いまさっき思ったこと

あとで読み返したときになにかが生まれるかもしれないし、生まれないかもしれないけど、それはそれでいい

自治体の悪ノリPRははたして有効なのか

世の中には「悪評も評のうち」とマジメに考える人が、あるいは「好きの反対は無関心だから知ってもらってたとえネガティブでも反応があったほうが良い」と考える人が少なくなく、それがいわゆる炎上マーケティングの根拠にもなってたりするんだけどはたしてほんとうにそうなんでしょうかね。

東京都西多摩郡にある瑞穂町のPRとして、伊藤大輔さんが観光PR記事を書かれていました。
ぼくはそもそも記事の存在を知らなくて、それを読んだ方が「ひどい」と書かれてるブログがツイッターに流れてきたのを見て知ったんですけど、まあひどい記事かはさておき、なんというか中指立てた感じの記事でした。
(元記事は差し替わってるそうなので、魚拓にリンクしておきます)

こうした自治体のゆるいPR――はっきりいえば、おふざけ・悪ノリPR――はいつからはじまったんでしょうか。

うどん県は2011年から

香川県が要潤さんを起用して「うどん県」のPRをはじめたのが2011年です。

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翌年には大分県が「おんせん県」として商標登録申請して群馬県や静岡県と軽くもめたり、さらに翌年には岡山市が「桃太郎市」に改名するとして(もちろんジョークとしてのちに撤回)PRサイトを公開しました。

自治体 PR 開始年月
香川県 うどん県 2011年10月
大分県 おんせん県 2012年8月
岡山市 桃太郎市 2013年1月

ほかにも別名をつけたわけじゃないけど「おしい!広島県」というキャンペーンもありましたね(2012年3月〜)。
最近はぼくが好きな歴史界隈にもこの手の流れがきていて、滋賀県が石田三成を起用しておもしろPR動画をYouTubeにアップしています。

「すでに記憶は薄れかかってたけど、ぜんぶ見たなあ」という方も多いと思います。

こうしたPR手法を評価する際に、「好き/嫌い」と「有効/無効」はわけて議論すべきですね。
なのでひとまず客観的なデータとして、その前後の観光客の推移を出してみました。出典は観光庁が集計している「観光入込客数」の数字です。

グラフは「日本人・観光目的」かつ「県外・宿泊」を取り出しました。都道府県単位のため、岡山市のかわりに岡山県を入れています(岡山市の数字については後述)。
なお単位はすべて「千人(千人回)」で実人数です。

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  2010年 2011年 2012年 2013年 2014年
香川県 1,147 1,166 1,300 1,264 1,408
大分県 2,758 2,746 2,624 2,604 2,416
岡山県 1,417 1,440 1,409 1,413 1,497
広島県 1,651 1,636 1,804 1,766  
熊本県 2,389 2,428 2,408 2,528 2,427

岡山市については市のサイトに観光統計情報がありました。

こちらは「延べ人数」となっており、基準が異なるため同一の表・グラフに入れていません(単位は「千人」です)。

  2010年 2011年 2012年 2013年 2014年
岡山市     5,313 5,632 5,837

 

効果はあったのか

数字を見るかぎり、「うどん県」は増えてるような気もしますね。
ただこれは「うどん」そのものがテレビ等で紹介される機会が増えたためでしょうね(でもそのブームを起こすきっかけとして「うどん県」PRをはじめたわけだから、正しく効果を発揮しているといえますね)。

Googleトレンドでは2011年以降、きれいに右肩上がりです。

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「うどん県」を打ち出した10月より前から上昇傾向にあるので、「うまくブームに乗っかって加速させた」という解釈のほうが正しいのかもしれないです。

ちなみに映画『UDON』は2006年8月の公開です。

多くの方の予想通り、大きなプラス効果はありません。ただ大きなマイナスもないという点は認識しておくべきですね。
もちろんお金は使ってるわけで、損得でいえば「損した」という評価になるかもしれませんけど、明らかなマイナスを証明できない以上、「お金をドブに捨てた」と断じるのはむずかしいと思います。

他の要因が強すぎるんでしょうね。
たとえば参考として入れた熊本県ですが、「くまモン」の登場は2010年3月です。くまモンかわいいですよね。大好きです。だけど、翌年(2011年3月)開通した九州新幹線のほうが観光客数への影響ははるかに大きいわけです。

ではなぜ、たいして効果が期待できない悪ノリPRは止まらないのか。
これはローリスク・ハイリターンな施策だと認識されているからかもしれません。じっさいのところハイリターンかは微妙ですけどね。少なくともスベったとしても、それで何百通・何百本かのクレームが入ったとしてもダメージはそのくらいで、マスコミでの紹介を考えればお得だと見られてるんでしょうね。
いまだにPRの世界では「広告換算値」がKPIとして使われていますが、たしかに数千万で作成したサイトが、数億円換算の露出になると考えれば手を出す人があらわれつづけるのも納得です。

じゃあまあいいか、無視しとけば。

もやもやするけど、今日はここまで

とは思うものの、いまいち釈然としないもやもや感も残るんですよね。

AIDMA/AISAS、そこから切りだされた「アテンション・エコノミー」的な考え方からすると、たしかに「知ってもらわなきゃ売れない」以上、きっかけはなんであっても「まず知ってもらう」ことは重要です。
でもそれは相手が加点法で評価してくれれば挽回のチャンスがあるけれど、減点法で評価されちゃうと第一印象がマイナスなら永遠にマイナスのままなんだよね。
(そして比較が簡単なネットでは基本的に減点法が主であることはみんな自覚してるはず)

香川県の「うどん県」がうまくいったように見えるのも、もともと「香川=うどん」という共通認識が受け手側にあったことが大きいでしょうし、ほかと比べてもおふざけの方向性が誠実っぽい気もします。マジメにふざけてるというか。

ダメだ、ぜんぜんまとまらん。
数字拾ってグラフを作成したり、もう2時間くらいこの記事にかけてるのでひとまずここまでにします。

瑞穂町、あれでよかったのかね。

 

[追記]
似たような構造の話として、マンガ原作のアニメを実写化(ドラマ化・映画化)する際、見ているのは原作ファンではなく、その向こう側にいるマスだからギャップが生まれるのは当然というのがあります。
原作ファンは「原作ぶち壊しだ!」と怒るけど、未読の人たちにとっては単純にひとつの作品としておもしろいかどうかが問われるので、原作の忠実度合いとか、作り手の原作愛すらどうでもいいと。

なのでとくにエンタメの分野では、不満をのべる人は一定数いることは織り込み済みで、ある程度振り切ったほうがいいんだという考え方もありますね。

おもしろき こともなき世を おもしろく すみなしものは 心なりけり