コンテンツツーリズムの認識すべき課題
知らない人には知らせないほうがいいと思ってたけど、とうとうテレビでも取り上げられちゃったので。
岐阜県美濃加茂市観光協会がアニメ「のうりん」とコラボして作成したポスターの件です。
ことの経緯など
経緯としては
- ポスターは11月7日からはじまる「みのかもまるっとスタンプラリー2015」を告知するためのもので、JR美濃太田駅に掲出されていた
- 11月4日にはツイッターでもポスターのデザインを公開
- 11月28日頃からこのポスターの表現を問題視する批判がツイッターを中心に寄せられた
- 11月29日、美濃加茂市観光協会はポスターを駅から撤去した
って感じ。これが観光協会のツイート。
皆様御無沙汰しております!
今年も11月7日(土)よりアニメ「のうりん」とコラボしたスタンプラリーが始まります!今回も3つのお店でスタンプをゲットすると景品をプレゼント!
景品は特製ウッドバッチ(3種)です。奮ってご参加くださいっ! pic.twitter.com/d3wXwYNypB
— 美濃加茂市観光協会 (@minokamo_kanko) November 4, 2015
リプライが激しい。あとツイートを削除してないのはすばらしい。
一方、事実として認識しておきたいのは
- このイベントは去年から開催されており、美濃加茂市と「のうりん」のコラボはアニメ放送前の2013年からおこなわれている
- 原作者も美濃加茂市を訪問するなど、(観光協会だけじゃなく)市とも良好な関係を築いている
- 市民からの批判はほとんど届いていない(担当者談)
というところでしょうか。
担当者のコメントはここで読みました。
美濃加茂市では、昨年から同様のスタンプラリー企画を複数回実施し、アニメファンを中心に観光客を集めていた。協力店舗も増加し、地域商店の売り上げにつ ながるなどの成果があり、地域活性化に一役買っていたという。担当者は「同作は真剣に農業を取り扱った作品。市民からはほとんど批判はなく、スタンプラ リーの協力店舗からも好印象だっただけに、ネット上での批判の声に戸惑っている」と話す。
美濃加茂市、アニメ「のうりん」コラボポスター撤去 ネット上の「セクハラ」「不適切」批判受け - ITmedia ニュース
ほかにもツイッター上で地元の方と思われるツイートをいくつか読みましたが、好意的(あるいは無関心)で、批判の声はないとのことでした。
(当然だけどこういうのは自分と似た意見しか紹介・拡散しないことが多いので、そのまま鵜呑みにするわけにはいかないけれど、もう3年目のコラボなので地元では「ああ、いつものアニメのやつか」くらいの印象かもしれないですね)
ただまあ客観的に見れば、「燃える要素」は持ってるポスター表現だよね。
過去は目立たなかったから炎上しなかっただけで、ついに見つかってしまったという感じ。
もちろんぼく自身のスタンスはこんな批判で撤去する必要なんてないと思ってます。
コンテンツツーリズムを仕掛ければ当然起こる問題
ネット、とくにソーシャルメディアが普及したここ数年はあっという間に拡散しちゃいますよね。ネガティブなトピックほど速いのはいまにはじまったことではないけれど、まあ速い。
今回の件にしても月初に公開した時点ではかぎられた人(ファン)にしか届いてなかったので騒ぎにならなかったのに、誰かが騒ぎ出した途端にこうなっちゃったわけで。
一時期流行った「インフルエンサー」ってのの存在を認めざるをえない。
(現代のインフルエンサーは「人」にかぎらないけどね)
とにかく感想としては「不幸な出来事だった」「気の毒だなあ」に尽きるのですが、同時にこういう危険性は認識しておくべきだとも思うのです。
とくに「コンテンツツーリズム」を礼賛してきた人たちが今回ほとんどなにも発言してないのも気になっていて、観光協会×アニメという、まさに「らき☆すた」にはじまる王道ともいうべき事例に連なる今回のケースについて、べつに擁護はしなくてもいいけど(それはそれでポジショントークだと火に油を注いじゃうから)、冷静なコメントはほしかった。
たぶん次の学会とかで今回の件をテーマにした発表があるんじゃないかと思いますけどね。
問題の本質はアニメを使うことの是非でもないし、採用するアニメの選択の話でもない。「届くべきじゃない人に届いてしまった」ケースのトラブルシューティングにすぎなくて、みんなでFAQを整備していく必要があると思うのです。
「無視を決め込む」でもいいし、「次回の検討課題にします」というテンプレ回答でもいいし、こういう批判は届くもの、こういうトラブルは起こるものとして、準備していかなきゃいけないんですよね。
とくにコンテンツツーリズムってネットやソーシャルを味方につけてなんぼの取り組みなわけだし、当然開催側もソーシャルメディアを活用して告知・宣伝するわけでしょ。
当初は好意的な人たちによる拡散だったのが、たまたま対象外に流れてしまった場合――というかそんなことは日常茶飯事で防ぎようがない――に一気に批判が殺到するというのは今後も何度でも起きます。
アウトとセーフの境界
そんなものありません。よく使われるたとえですが、ディズニーだって嫌いな人はいるんです。
もちろん批判者を最小化するための努力はできるけど、そうしてできあがったものが誰の心を動かせるというのか。
是非と好き嫌いをわけて議論しなきゃいけないってだけの話なんだけど、まあすべての人に求めるのはむずかしいよね。
ちなみにこれが過去のポスターだけど、今回騒ぎになったのはなにも胸が強調されたキャラだったからではないとぼくは思ってます。ほんとたまたま(見つかっちゃいけな人に)見つかっただけ。
作品をつくる人はもちろん、こうやって作品のチカラを借りてプロモーションに利用しようとする人にとっても、ほんとうに悩ましい時代ですけど、もうネットのなかった時代に戻ることはないし、とりあえず諦めて、受け入れて、うまく向き合っていくしかないですよね。
必要以上に拡散させようとせず、そばにいてくれるファンを大事に、彼らの声と通りすがりの人の声を聞きわけて、丁寧に対応していくしかないと思います。
ま、ぼくはアニメ見てないんだけども。
(今回の件は見てるかどうかも関係ないって話なのはいうまでもないですよね)