なぜ最愛を目指すべきなのか(最愛バイパスについて)
マーケティング is.jpに「最愛を目指せ」と書いたのは2010年2月のことでした。
これをテーマにした講演は2011年の夏に最初にやってから、かれこれ10回をこえています。20回くらい話したかも。
その間、アップデートを繰り返したスライドも100ページ近くにまでふくれあがりました。他の方の講演などで引用いただいたという話もちらほら聞いています(ほんとうにありがとうございます!)。
そんなこんなで5年以上、考えつづけているテーマですが、いまだに発見もあります。
今回もひさしぶりにアップデートしました。
以下、軽く引くくらいの自画自賛がつづきますが、追加したスライドはこの1枚のみです。
この1枚を追加しただけでバージョンを1.5から2.0に上げたのですが、そのくらい象徴的な1枚だと思ってます。
ようするに、「最愛戦略を選ぶとなにがいいのか」、「最愛戦略はほかのふたつの戦略(最高、最安)とどうちがうのか」という問いに対して、わかりやすく答えられていると思うのです。
AIDMAでもAISASでも、あるいはほかの独自な購買行動プロセスでもいいんですけど、一般的にぼくらはなにかを買おうと思った際に、類似した商品と比較(そして検討)します。
当然そこでは価格や機能(スペック)といった比較しやすい情報がもとになっていて、カカクコムなどはそこに特化したからこそあれだけ利用されているわけです。*1
iPhoneやMINI、あるいはスウォッチや「ほぼ日手帳」のように、特別機能面ですぐれているわけでもなく、価格的にももっと安い競合商品があるにもかかわらず、ちゃんと売れている商品が世の中にはあって、そういう「指名買い」がなぜ起こるのかということをずっと考えてきて、まだその原理のすべてを解明できたわけじゃないんだけど、「最愛戦略」は「競争を回避するための戦略」であることがあらためて確認できた気がします。いや、これまでもそういう話をしてきてたんですけどね。
別の表現をすれば、多くの企業が比較検討段階での競争を勝ち残るために多大なマーケティングコストを投じる中、そもそもその競争に巻き込まれないためにコストを投じるという考え方ですね。
ぼくはこれを「最愛バイパス」と名づけましたが、この図のとおり、「最高」や「最安」と、「最愛」のもっとも大きなちがいは、購買行動プロセスにおける「比較」や「検討」というステップを回避できる点にあります。
最近ブームの「コンテンツマーケティング」にしても、検索でヒットするために取り組むんじゃなく(それを否定はしませんが)、この最愛バイパスを開拓するために取り組んだほうが効果が出るんじゃないかと思います。
そういえば何年か前に、「消費者に検索された時点で負けで、検索されない関係を築くことのほうが大事」というようなことを書きましたね。いってることは変わってませんが、当時はうまく図式化できてませんでした。
価格やスペックで競合企業(商品)と比べられることなく、いうなればその企業やブランドの「人柄」や「個性」で選ばれることが叶うなら、値下げ競争というチキンレースに参加しなくても良くなるし、スペック表で競合製品と揃えるだけのための機能開発も不要になります。
そうすれば適切な利益が確保できるだけでなく、それを再投資することで企業と顧客との関係性はより強固で永続的なものになるでしょう。
こうした消費行動、企業のマーケティング戦略を、最愛バイパスとして図式化することで、自分がこれまで主張してきたことが単なる理想論ではなくて、かなり希望の持てる選択肢として裏打ちされた気がしたんですね。*2
(ぼくの好きな「現実的な理想論」というやつです)
会社を辞めたことに伴い、また出前セミナーも復活しようと思ってるので、またこういう話をしたいな。
あと事例研究をいろいろやっていきたいので、勉強会のような場もつくっていけるといいなと思います。希望者がいるかわかんないけど。
最新版のスライドを貼り付けておきますね。感想とか聞かせてもらえるとうれしいです。
[追記]
いつものように補足しておきますが「最安」や「最高」が選択できる状況にあるならば、むしろ積極的に採用すればいいと思います。
このふたつの戦略はやることがはっきりしていて非常にわかりやすいので、社内の意思統一も図りやすいですしね。
ただ資本力などの条件がそろわないために採用しづらい企業のほうが多いのも事実ですし、「最安」の裏事情がいわゆるブラック的な理由の場合、手痛いしっぺ返しがあるので、それは正しい戦略ではないと思います。
そもそも誰かが泣いたり耐えたりしないと実現できない「安さ」なら、消費者として求めるべきではありません。だからぼくら自身が「商品やサービスに対して、ちゃんと払うべき対価を支払う」ことも考えていかなければならないのでしょうね。