いまさっき思ったこと

あとで読み返したときになにかが生まれるかもしれないし、生まれないかもしれないけど、それはそれでいい

ソーシャルメディアにはコンテンツそのものを流すべきなのか

BuzzFeedのCEO、Jonah Perettiが「ソーシャルメディアには、情報へのリンクではなくコンテンツそのものを流すべき、なぜならソーシャルメディア上のインプレッションのほうが数字としてははるかに大きいから」とSXSWで語ったとされる記事が公開されてから、すでに1ヶ月近くが経過していますが、個人的にはいまなお頭の中でひとりディスカッションがつづいているホットなトピックです。
 
ひとりで思考するのも悪くないけど、そろそろこういうテーマで雑談しあえる仲間を募りたいなと思って、ちょっと吐き出してみようと思います。

この記事が示しているのは各ソーシャルメディアから自社サイトへの流入数よりも、配信先であるソーシャルメディアそのものでのインプレッションのほうが数十倍も大きいので、Facebookツイッターにコンテンツそのものを投稿してその場で読んでもらうことに注力したほうがいい、というものです。
 
具体的な数字も紹介されています。
Twitter経由で獲得するリファラルのトラフィック(月間)は1250万で、Pinterestからは6000万、そしてFacebookからは3億4900万を獲得しているのだそうだ。

リファラルによるトラフィックは、コンテンツ閲覧者に比べると非常に小さな数字となっています」と言っている。確かに、インプレッション数を見るとTwitter上で8億4700万、Pinterestで60億、そしてさらにFacebookでは113億という数字になっているのだ。

 整理すると次のようになります。

 
リファラル(流入数)
インプレッション数
 差
3億4900万
113億
32.4倍
1250万
8億4700万
67.8倍
Pinterest
6000万
60億
100.0倍
 
記事中にあるスライドの円の大きさのインパクトもすごいですけど、こうして倍率を割り算して出してみてもたしかにすごい差です。
(BuzzFeedのツイッターアカウント @buzzfeed は215万フォロワーもいることを考えれば流入数が少ないような気もするけど)
 
じっさい、ほとんどすべての企業アカウントは自社サイトへのリンクを本文のサマリーやリード文をつけて投稿していると思います。
もしかしたらリード文も用意せず、記事の冒頭100文字をRSSから切り取って自動投稿しているケースもあるんじゃないでしょうか。
 
BuzzFeedでは「Share Statement」と呼んでいるソーシャルメディアに投稿する際に付与するテキスト(見出し)は、記事のもともとの見出しなどよりも重視視されているそうです。
なぜならこの文章によってシェアされるかどうかが大きく左右されるからです。
 
先日、NewsPicksに掲載された記事では、この部分は複数のパターンのA/Bテストを実施して、自動的に最適化される(=成績のいいものが選ばれる)と書いてありました。
(おそらくは訪問者あたりのシェア率が最大化するようにチューニングしてるんでしょうね)

記事は見出し、写真、本文という構成ですが、本文はそのままで、見出しと写真は最大12パターンも作ります。そして、そのすべてのパターンを配信し、数時間モニタリングします。最もクリック、シェアされたパターンが判明すると、記事をそのパターンにすべて差し替えるのです。これらのプロセスは、すべて自動化されています。
こうした取り組みを通じて拡散率(シェアされる割合)を高め、それによってインプレッション=リーチを最大化するという全体の方針があっての冒頭の発言であることは認識しておくべきでしょう。
 
話をTechCrunchの記事に戻すと、「リンクではなくコンテンツそのものを配信すべき」というPerettiの主張は、BuzzFeedがネイティブアドによって収益を上げているからだろうとまとめられていて、読者の反応もおおむね同じような感じでした。
(バナー広告の場合は自社サイトに誘導しなければ1円の売上にもならないけど、ネイティブアドなら基本的にはインプレッションさえ稼げれば場所は問わないので)
 
たしかにそれはそのとおりなのですが、ぼくはこの議論はオウンドメディアの成長戦略や、コンテンツマーケティング全体のテーマとして議論されるべきなんじゃないかと思ったのです。

PVよりもリーチのほうが重要なのはほんとうか

まず大前提として「(誘導のためのリード文やサマリーじゃなく)全文配信できるのか」という問題はありますよね。
じっさいツイッターに投稿できる文字数はかぎられていますし、投稿できる文字数に制限のあるサービスは少なくありません。
 
また、「自社サイトと配信先のソーシャルメディアで読了率は変わらないのか」という問題もあります。
経験的にはFacebookのニュースフィードに流れてきたとしても「もっと見る」を押してわざわざ全文表示するケースは少ないですし、スマホで閲覧している場合などは結構なスピードでスクロールするのでほとんど認識すらできてないケースもあって、なんとなく読了率は低くなりそうな気がします。
 
こうした検討や確認すべき課題はあるものの、思考を先に進めます。
 
見てくれる人が多ければ多いほどいい」というのはオウンドメディアにも当てはまりますよね。
オウンドメディアの場合も(BuzzFeedとは理屈はちがえど)バナー広告を見せる必要はないわけですから、いちいちサイトに誘導しなくてもソーシャルメディア側で商品の認知やブランドの好意度向上が達成できるならそれでもかまわないはずです。
(ただしECに誘導するなどサイト内の特定のページに回遊させることが目的のオウンドメディアの場合はあてはまりませんが)
 
もしほぼ同じボリュームのコンテンツを配信できて、読了率にいちじるしく差がなければ、メディアの目的やマネタイズ手法によっては――つまりバナー広告表示やサイト内遷移などの制約がなければ――、PVよりもリーチのほうが重要だといえるケースが存在しそうです。
 
このケースにおいてはネイティブアド(スポンサードポストや記事広告型)の出稿や、ポータルサイトやキュレーションメディアへの記事配信も積極的にやればいいと思います。
 
いちおう触れておくと、このこと自体はなにも新しい話じゃなく、従来から「ワンソース・マルチユース」として語られてきたものです。

なぜBuzzFeedは実践してないのか

しかしここで気になる事実があります。
 
とうのBuzzFeedのFacebookページを見てみましたが、全文を投稿しているわけではなく、しかも投稿時のテキストも「The Titanic hadn't even been built yet.」だけというように、ごくごくあっさりしたものでした。
これではFacebookだけで内容は理解できませんし、とてもコンテンツそのものが配信されているとは思えません。

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なぜBuzzFeedは「コンテンツそのものを流すべき」といいつつ自ら実践していないのでしょうか。
 
まだ検討中だから?
広告主の理解が得られてないから?(ソーシャルメディア上の露出を等価値と認められないから?)
 
自社のオウンドメディアの取り組みとして検討するにしても、ここを考えておかないと大失敗につながりそうです。
 
その一方で「NowThis News」という新興メディア(BuzzFeedも十分、新興メディアなんですけどね)は自社メディアを完全に廃止して、すべてのコンテンツをソーシャルメディア側にだけ置くように方針転換したそうです。
(参照:分散メディア革命/NowThis News が示す Webサイト消滅への道 | 藤村厚夫 Media Disruption

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これは「NowThis News」のコンテンツが「動画」だからやりやすかったということなのかもしれません。
(だとすればテキスト中心である大半のオウンドメディアはBuzzFeed同様、思考実験にとどめておくべきなのかもしれませんね)
 
ソーシャルメディアやネイティブアド、あるいはキュレーションメディアなど、コンテンツそのものを外部配信することが容易になったいま、昨日までの常識にとらわれて「自社サイト以外にコンテンツを出さない」と決めつけるのは危険だと思います。
しかし、簡単に結論を出せるテーマでもなさそうです。
 
結論のないままの投稿になっちゃいましたが、今後も継続して考えたいテーマだと思ってるので、興味のある方は連絡ください。
 
p.s.
以前より「分散型BuzzFeed」については「SmartNews」の藤村さんのブログでも触れられていましたが、今回の内容はこれを読んだときからずっと考えてきているテーマでもあります。

おもしろき こともなき世を おもしろく すみなしものは 心なりけり