炎上させる意図がなかった企業と炎上を狙うことがある代理店の事情
一部で話題になっているウェブCMの件。最初に感想を書いておくと「たぶんある程度は折り込み済みだったんだろうな」と思って騒動を見てました。
電通関係者は「炎上を狙うことがある」と。
「ウェブなら、燃えたほうが話題になるので、炎上スレスレ。または炎上狙いをすることがあります。普通のウェブコンテンツって全然アクセスがないんです。商品の広告をわざわざ見る人はいないので」
サントリー広報は「炎上させる意図はなかった」と。
――今回の動画についてインターネット上や、弊社が取材した消費者や学識者からは、女性の「コックゥ〜ん!」という声や表情、カメラワーク、会話の内容などから性的なメタファーを感じるという声が出ています。そうした性的なメタファーを動画中に入れ込むという制作意図はあったのでしょうか?
新発売した「頂〈いただき〉」のおいしさを、ご当地グルメや方言と合わせて全国のお客様にお伝えする意図で制作したもので、ご指摘のような制作意図はございませんでしたが、結果として制作意図に反し、視聴された一部のお客様のご気分を害する結果となり、深くお詫びいたします。
どっちがほんとうのことをいってるのかはともかく、それぞれがそれぞれの立場上そう答えざるを得ないといった感じ。企業の広報が「狙い通りよく燃えましたね、へへへ」とかいえるわけないし、まともな人ならブランド価値が毀損する炎上なんて狙うわけがない。
電通関係者が実在するのかは知らないけど、代理店側の事情もわかる。
エッジの立ってない動画が見られるわけないのは当然で、テレビCMとちがってネットの場合はユーチューバーとか松居一代とかぶっ飛んでる連中と競わなきゃいけない以上、あたりさわりのないCMで見てもらえるわけがないから、ギリギリを攻めざるを得ないという気持ちは理解できる。
そういう意味では最近だとトヨタは「昭和か!」って思うくらいのド直球なタレントCMをつくって、ネットにも上げてるけどあれはけっこう正しい気もする。
とはいえ石原さとみや新垣結衣を使った動画でさえ、数万〜数十万回しか再生されてないというのも事実。こんなにかわいいのに。もっかいいうよ、こんなにかわいいのに。
指標がまちがってるから手段もまちがうんじゃない?
広告予算が少ない商品の場合は(メジャーなタレントをネットでも使おうとすると契約金が増すことも多い)ネット単独でプロモーションしなきゃいけないこともあって、今回のケースも少ない予算で最大の効果を狙いにいった結果、自打球で戦線離脱って感じでしょうね。
これがサントリーの「やってみなはれ精神」ゆえの炎上ってことでもないんだろうけどさ。
ただ、電通さすがだなあと思ったのは、100%批判で埋め尽くされるネタではなく、一定の擁護派も出てくるようなところをついてきてるところで、「上品か下品か」でいえばほぼ全員下品と答えるんだろうけど、これが「女性蔑視か」と問われたら意見がわかれてる。キャスティングを男女入れ替えたバージョンで同じ批判が起きたかというと起きなかったと思うしね。
また、この動画を喜々としてシェアしてるおじさんもFacebookとかのぞいたらたくさんいた。
少なくともこの商品のターゲット層のけっこうな割合を占めるおじさんにはウケてたわけで、企画としては悪くはない。
あ、ぼく個人はこういうあざとい企画は嫌いですけど、でもベタではあるのでたぶん100案考えろといわれたら入れちゃうと思います。
(そして大事なことは好き嫌いと是非はわけて論じるということです)
一方で予想どおり燃え盛るわけです。その点では企画としては良くもない。
むかしは2chの中だけで「次の祭りはどこか」と徘徊していた人たちが、いまはネットのあちこちにいるので、企業としてはほんとうに大変な時代になってしまったなと同情します。
こうした炎上を防ぐためにも現代マーケティングでは「いかに届けないか」を考えないといけないんだけど、いまだに評価指標がPVや再生回数になってる企業も多くて、その基準をクリアするために今回のような不幸はこれからもつづくんだと思う。
誰も幸せにならないのにね。