おもしろいインタビューは過去ではなく未来を問う?
昨日の深夜、NHKで「SWITCHインタビュー 達人達」の再放送をやってたので見てたんだけどほんとおもしろい。漫画家の松井優征先生とデザイナーの佐藤オオキさんの回ね。
オンエア時に見逃してたからラッキーでした。
で、つくづく自分がこういった対談とかインタビューといったものが好きなんだなあと実感したわけなんだけど、なにがおもしろいかというと、「ある人がその場で考えを整理して言葉にする」という瞬間に立ち会うのが好きなんだと思った。それも一流の実績を残してきた方であればなおのこと。
当人がさほど(あるいはまったく)考えてこなかったようなことを問われて、「さて自分はその問題についてどう対処しているんだろう」と考え、相手に伝えるために言語化する。
すっとは出てこないこともあるけど、その「うーん」という表情も好き。そして「こうかなあ、いやちがうな」みたいな発言も好き。
そうやってさぐりさぐり、慎重に言葉を選びながらようやく答えた言葉にものすごく興奮するんですよね。
松井先生「何が好きなんだろうって言葉にできますか? デザインのなにが楽しいか」
佐藤さん「なにが好きなんでしょうねえ……、考えたことなかったなあ……、うーん、なんでしょうかねえ」
こういう時間ってじっさいテレビ番組ではカットされちゃうことも多いだろうし、紙面/誌面ではばっさり削られちゃうんですけど、ぼくはこの「みんなが待ってる」時間が好き。
問われて考えてる本人も含め、全員が何十秒とかの時間をただ待ってるだけ。
けっきょくこのあと佐藤さんは「期待されることなんでしょうね。ひたすら期待に応えたい、そのプロセスを楽しんできた」と答えて、さらに自分はなんでも楽しめちゃう、好きになれちゃうという話がはじまるんだけど、この自分語りを引き出したのは松井先生のふわっとした質問なんですよね。
ふわっとした質問は諸刃の剣で、相手をただただ困らせてしまうこともあるけど、相手とタイミングさえまちがえなければ問われたほうから感謝されたりします。
あなたのおかげで自分の考えを整理できましたってね。
こういうふたりのやり取りで「跳ねる」瞬間も好き。
佐藤さん「アイデアって硬度があると思ってるんですよ、硬さ。で、それをどのタイミングでどう固めていくのがいいかってのがけっこうポイントとしてあって、二次元の絵とか、スケッチとか、まだ柔らかくて、解釈の余地があるじゃないですか。それがたぶんアニメみたいな動画になっていったりとか、立体になったりとか、どんどん固まってっちゃうので、もう立体物になるとかなりアイデアって固まっちゃうんですよ」
松井先生「商品化されてしまうってことですね」
佐藤さん「そういうことなんですよ」
松井先生「その、わたあめみたいに広げる時間が長いほうが総面積が広がるみたいな」
佐藤さん「あああああああ、そういうことです! そこの、どのタイミング、ギリギリまで柔らかく保持できるか、その固めるタイミングっていうのがけっこうミソなのかなって気がします」
完全に通じたって感じが見てる側にも伝わってきてて(まあ視聴者にも通じてるかはわかんないけど)、佐藤さんの「理解者があらわれた!」ってテンションが上がったところとか最高でした。
まあこういうのは聞き手の問題が6割方あって、いい質問だからいい答え、いい反応を引き出せるってのはわかるんだけど、なんとなく思ったことがあります。
それは「過去を問う」じゃなく「未来を問う」ことを意識したほうがいいなってことです。
ぼく自身、これまでも取材としてインタビューする側に立ったことは何度かあって、それは成果物の都合上、基本的には「なにをやってきたか」を聞くことが大半でした。まあ確認作業ですね。
もちろんそのときに「(その当時は)どんなことを考えてたのか」という質問も入れるようにはしてたんだけど、この手の質問は相手の記憶をすくうだけで、深層の思考には到達できない。
たとえばこれが「もし次にやるならどうします?」と聞き方を変えるだけで、たぶん相手はあらたに答えを考え出さなきゃいけなくなりますよね。
いくつかの反省材料はきっとあるだろうから、それをどうやって改善するか、一度やってみたことでわかった課題や制約も踏まえて、現実的な落とし所として妥当なラインはどのへんなのかを猛スピードで考えながら答えを紡ぎ出すと思うんですよ。
いってみれば過去を聞いただけでは相手の「経験」しか聞けないんだけど、未来を問うことでようやく「経験値」を手に入れることができるというか。
よくある事例乞食みたいなのも同じ話で、過去しか見てないから「経験」コレクターになっていて、だから自分で実行する際にうまくアレンジできないし、結果、雑なパクリになって失敗する。
相手の「経験値」を拝借してこそ、スタートの条件をより有利にできるわけで、ここはもっと意識したほうがいいなあと思いました。
そういや、対談コンテンツが好きすぎてこんなのもつくってたんですけどね。