キン肉マンは「プロダクトプレイスメント」ではなく「ステマ」のハシリだったのかも
「キン肉マン」といえば「牛丼一筋300年〜♪」と吉野家の牛丼のイメージが強いと思いますが、今日はこの『週刊少年ジャンプ』黄金期を支えた作品のひとつ「キン肉マン」と広告についての話を書きます。
プロダクトプレイスメントってなに
広告の世界には「プロダクトプレイスメント」と呼ばれる手法があります。
たとえばドラマの主人公が持ってるスマホや時計や、乗ってるクルマがじつはスポンサーの会社のもので、こんな感じで企業の商品を役者の小道具や背景として登場(露出)させる手法のことをいいます。
Wikipediaによれば
誕生は1955年公開のハリウッド映画『理由なき反抗』と云われる。劇中でジェームズ・ディーンがポケットから櫛を取り出し整髪するシーンが何度も出てくるが、これを観た当時のアメリカの若者たちから「ディーンが使っていた同じ櫛はどこで買えるのか?」と映画会社(ワーナーブラザーズ)に問合せが殺到。これが新しい宣伝ビジネスモデルになると気づいた映画会社は、以降、一般企業との「劇中広告でのタイアップ」を始める。これが「プロダクト・プレイスメント」と呼ばれ、一般化した。現在、アメリカではPP専門の広告代理店が数十社存在する。
とあります。これがほんとうに最初のきっかけなのかはわかりませんが、じつに賢い人たちですね(狡猾なという表現のほうが適切かもしれないけど)。
じっさい、こうした例は増えています。ま、メガネなんかは「○○モデル」みたいなタイアップ商品を販売したりしてるので、当初の「ドラマや映画などの作品内に企業の商品をさりげなく映り込ませる」をこえて、ドラマがCMみたいになってるところもありますけど。
キン肉マンの作品中に登場した企業の商品
で、「キン肉マン」ですが、じつは吉野家がスポンサーだった、という話ではありません。むしろ「吉野家はアニメも含め一度もスポンサードしたことがない」と作者の嶋田先生が過去にツイッターで発言されてて話題になってましたね。
じつはキン肉マンは1話目から牛丼を食べてるのですが、そこに企業名は入っていませんでした。
ミートくんが初登場する第3話「キン肉星からの使者の巻」で「牛丼ひとすじ八十年♪」という吉野家のCMソングが出てきます。
(CMソングの引用なのでJASRACの表示はありました)
そして4話目の「キン肉星を救え!の巻」で「ここは吉野家 味の吉野家」とはっきり吉野家の企業名が作品中に登場します。若い人は知らないかもしれないけど、これもCMの冒頭で流れてたナレーションです。
ここまでがっつり登場してても、吉野家についてはゆでたまご先生が勝手に使ってただけでお金は支払われていなかったそうです。
(ギャグとしてCMを使うという手法は珍しくはないです)
お金を出していたのは吉野家ではなく、森永製菓と森永乳業でした。
アニメのほうに登場していた記憶がぜんぜんないんだけど、たしかに原作にはポテロングやサンキスト、森永ココアといった商品がやたら登場します。
今回これを書くためにコミックス1巻を読み返したけど、12話目の「孤独のドジ怪獣の巻」にポテロングが登場して以降、たしかに毎週のように森永の商品が出てきます。
以下に一部だけ紹介しますが、じっさいにはもっと頻繁に出てます。
また、お金が出ていたことは先生の本で明らかにされていますので、該当部分を引用します。
ポテロングでスポンサー獲得!!
話は唐突に変わるが、ポテロングというお菓子をご存知だろうか?
森永製菓から長年にわたり出されているスナック菓子だが、ボクたちは作品中で何度もこのポテロングをキャラクターたちに食べさせた。森永のココアを出したこともある。
これを出していたのには理由があった。
連載開始初期の頃、ボクたちの原稿料は1ページにつき、5000円だった。だいたい月の収入にすると20万円ぐらいである。これをボクたちは2人で折半していた。
ボクたちはひとりではなく、2人のコンビであったため、さすがにこの収入で生活するのはキツかった。しかし、ここで思わぬ助け舟が登場した。
それが森永製菓である。森永製菓の重役さんがボクたちの『キン肉マン』を気に入ってくれて、作中に一コマ出すだけで、1週につき、5万円を出してくれることになったのだ。
つまり、森永製菓が『キン肉マン』のスポンサーになってくれたのだ。
最初、ボクたちは絵の脇にひっそりと森永のココアやポテロングを置くだけだったが、そのうちキャラクターたちと積極的に絡ませるようにした。
「ヒゲとココアさんはよく似合う」(キン肉マン)
「ヒゲを生やさんでください!」(ミートくん)
このやり取りやミートくんのエンジェル体操など、ドンドンドンドン作中で森永製菓の商品を出していった。それは森永製菓の重役さんのご好意への恩返しの気持ちもあった。
この収入のおかげで、ボクたちは駆け出しの頃に苦しい生活をせずにすんだからである。プロレスのリングを見たことのある人ならよくおわかりだろうが、リングのマットやコーナーポストにはよく企業広告が入っていることがある。
『キン肉マン』における森永の商品は、それを同じ役割を果たしていたのだ。
宝島社「ゆでたまごのリアル超人伝説」P.63-64
美談のように書かれているけど、お金が払われていることが明らかで、だけど作品中にはどこにもそれが明示されていないということは、ありていにいえば「ステマ」です。
ぼくらが大好きな「キン肉マン」がこの収入によって支えられていたという事実は、当時愛読していたぼくにとって心情的には責めづらいけれど、だったら堂々と書けばよかったのにとも思うんですよね。
(書いてたほうが広告の歴史的にも画期的だったわけだし)
キン肉マンはプロダクトプレイスメントのハシリなのか
「キン肉マン」が「プロダクトプレイスメント」のハシリだとか、元祖だとかという話はネットを検索すればけっこう出てきます。
だけど、ちょっと残念な話ではありますが、作中はもちろん巻末にもいっさいスポンサークレジットがありませんので、これはむしろ「ノンクレ広告」のハシリといったほうが正しいのかもしれません。
ましてや森永の商品を宣伝しようという意図が少なからずあった以上、ステマといわれてもしょうがないかなあと。
ちなみに森永製菓はアニメ版のスポンサーをつとめていたそうですが、アニメは1983年からの放送なので、少なくとも連載開始当初(1980年〜1983年)の両者の関係は伏せられていたわけですね。
もっともアニメ版のスポンサーをしたからといって、原作の作品中にノンクレで出していいのかって判断はあるけれど。
いまはステマについてはみんな過剰になりすぎていて、なんでもかんでもステマ扱いする傾向があります。それについてはぼくも辟易しているので、この「キン肉マン」のケースがステマに該当するかどうかについてはみなさんの判断に委ねます。
(これが「広告」なのかとか、いろいろ論点はあると思います)
ちょうどいまKindleで「キン肉マン」が期間限定無料キャンペーン中なので、ぜひ1巻だけでも読んでみてください。
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もっともステマかどうかに関係なく、やっぱり「キン肉マン」という作品はおもしろいので、2巻以降もきっと読んじゃうと思います。
とくに超人オリンピック編以降、敵がインフレしていくし、敵キャラが仲間になるし、死んだと思ってたキャラがじつは生きてるし、とにかく『ジャンプ』の王道パターンのすべてがつまっている名作です。
初期からのキャラであるテリーマンとの確執とか、王位継承とか、ストーリーもいま読んでもアツくなれます。
そして、作品をたっぷり堪能したあとで、ノンクレ広告やステマのなにがダメなのか、どうやってれば良かったのか、そもそも「キン肉マン」のケースはステマなのか、などについてちょっとだけ考えてみてもらえるとうれしいです。
で、もしよければそれについてちょっと話したいです。
そもそもステマの違法性はけっこう微妙だったりするので、断罪したいというよりは「当時は牧歌的だったよねえ」という話になっちゃいそうですけどね。それならそれでいいですし。
ただ、いまだからこそいい題材になるかもしれないなと思ったんですよね。
ステマやノンクレ広告が法よりも倫理に寄った話であるからこそ、どういうケースならアリなんだろうかと考えるきっかけになるんじゃないかなと。
[補足]
なぜ「まんがseek」じゃなくここに書いてるのかというと、ポジティブな内容ではないからです。
じつはこのテキストは「『キン肉マン』こそがプロダクトプレイスメントの元祖だ!」的な内容としてちょっと前に書きはじめてたんですが、原作を読み返したり、ゆでたまご先生の本を読んでるうちに「これはプロダクトプレイスメントとして褒めちぎるわけにいかないな」と当初思ってた内容にはなりませんでした。
ただ、大好きな「キン肉マン」を貶めるような内容かもしれないので公開を躊躇してました。そしたらちょうどKindleで無料キャンペーンがはじまったので、いっそみんなに読んでもらって是非の判断や感想を聞かせてもらいたいと思って今回公開しました。