炎上させる意図がなかった企業と炎上を狙うことがある代理店の事情
一部で話題になっているウェブCMの件。最初に感想を書いておくと「たぶんある程度は折り込み済みだったんだろうな」と思って騒動を見てました。
電通関係者は「炎上を狙うことがある」と。
「ウェブなら、燃えたほうが話題になるので、炎上スレスレ。または炎上狙いをすることがあります。普通のウェブコンテンツって全然アクセスがないんです。商品の広告をわざわざ見る人はいないので」
サントリー広報は「炎上させる意図はなかった」と。
――今回の動画についてインターネット上や、弊社が取材した消費者や学識者からは、女性の「コックゥ〜ん!」という声や表情、カメラワーク、会話の内容などから性的なメタファーを感じるという声が出ています。そうした性的なメタファーを動画中に入れ込むという制作意図はあったのでしょうか?
新発売した「頂〈いただき〉」のおいしさを、ご当地グルメや方言と合わせて全国のお客様にお伝えする意図で制作したもので、ご指摘のような制作意図はございませんでしたが、結果として制作意図に反し、視聴された一部のお客様のご気分を害する結果となり、深くお詫びいたします。
どっちがほんとうのことをいってるのかはともかく、それぞれがそれぞれの立場上そう答えざるを得ないといった感じ。企業の広報が「狙い通りよく燃えましたね、へへへ」とかいえるわけないし、まともな人ならブランド価値が毀損する炎上なんて狙うわけがない。
電通関係者が実在するのかは知らないけど、代理店側の事情もわかる。
エッジの立ってない動画が見られるわけないのは当然で、テレビCMとちがってネットの場合はユーチューバーとか松居一代とかぶっ飛んでる連中と競わなきゃいけない以上、あたりさわりのないCMで見てもらえるわけがないから、ギリギリを攻めざるを得ないという気持ちは理解できる。
そういう意味では最近だとトヨタは「昭和か!」って思うくらいのド直球なタレントCMをつくって、ネットにも上げてるけどあれはけっこう正しい気もする。
とはいえ石原さとみや新垣結衣を使った動画でさえ、数万〜数十万回しか再生されてないというのも事実。こんなにかわいいのに。もっかいいうよ、こんなにかわいいのに。
指標がまちがってるから手段もまちがうんじゃない?
広告予算が少ない商品の場合は(メジャーなタレントをネットでも使おうとすると契約金が増すことも多い)ネット単独でプロモーションしなきゃいけないこともあって、今回のケースも少ない予算で最大の効果を狙いにいった結果、自打球で戦線離脱って感じでしょうね。
これがサントリーの「やってみなはれ精神」ゆえの炎上ってことでもないんだろうけどさ。
ただ、電通さすがだなあと思ったのは、100%批判で埋め尽くされるネタではなく、一定の擁護派も出てくるようなところをついてきてるところで、「上品か下品か」でいえばほぼ全員下品と答えるんだろうけど、これが「女性蔑視か」と問われたら意見がわかれてる。キャスティングを男女入れ替えたバージョンで同じ批判が起きたかというと起きなかったと思うしね。
また、この動画を喜々としてシェアしてるおじさんもFacebookとかのぞいたらたくさんいた。
少なくともこの商品のターゲット層のけっこうな割合を占めるおじさんにはウケてたわけで、企画としては悪くはない。
あ、ぼく個人はこういうあざとい企画は嫌いですけど、でもベタではあるのでたぶん100案考えろといわれたら入れちゃうと思います。
(そして大事なことは好き嫌いと是非はわけて論じるということです)
一方で予想どおり燃え盛るわけです。その点では企画としては良くもない。
むかしは2chの中だけで「次の祭りはどこか」と徘徊していた人たちが、いまはネットのあちこちにいるので、企業としてはほんとうに大変な時代になってしまったなと同情します。
こうした炎上を防ぐためにも現代マーケティングでは「いかに届けないか」を考えないといけないんだけど、いまだに評価指標がPVや再生回数になってる企業も多くて、その基準をクリアするために今回のような不幸はこれからもつづくんだと思う。
誰も幸せにならないのにね。
電子書籍の問題は価格ではなく発売日
この記事を読みました。
電子書籍にかぎらず何十年とかけて本を安くしすぎたというのが最大の問題の気もするけど、電子書籍にかんしては「価格が高い」よりも「なんで紙の本と同じ日に発売しないのか」のほうが不満が大きいよね。
価格によって購入を諦めて失ってる損失より、数か月待たされることで買うのをやめて失ってる損失のほうがはるかに多いはず。
仮に紙の本よりも早く読めるなら多少高くても買う人はいるし、発売後一定期間が経過したら段階的に値段を下げていけばいい。
数秒で価格を更新できるのが電子書籍のいいところなのに、そこを自らコントロールしないでAmazonに自由にさせてる現状がよろしくないんじゃないかなあ。
(再販制でできないのかと思ってたけど、どうやら電子書籍は対象外らしいし)
たぶん現場的には行程の問題があるんでしょうね。
でもいまどき「あとからデジタル化」って何割くらいあるんだろう。
冒頭の記事によれば、「紙の本は初版では利益が出ない」とのことだから、だったらその制作プロセスを最適化して、電子書籍化とその販売は利益確保のために戦略的に取り組めばいいんじゃないのかと思うんだけど、たぶん「市場が小さいから」やらないんだろうね。
でもこれはいわゆる鶏卵問題だし、どう考えても紙の下落は今後も進むわけだから、電子書籍の市場拡大に出版社自ら取り組んだほうがいいと思うんだけど。
p.s.
まあ「利益ゼロ」っていうけど内訳見たら人件費その他すべてのコストはまかなえているわけで、これけっこう初版部数多いケースじゃないかとかいろいろもやっとする点は残る。
企業から送られてくるウザったい誕生日おめでとうメールの中に見た一筋の光明
誕生日ということで、頼みもしていないのに各社からメールが届きます。
パスワード再発行時などの本人確認のために教えたのであって、こうしたメールを送るために個人情報を開示した覚えはないんだけどね。
でまあ基本的には各社ともに「誕生日おめでとう! ポイントあげますよ(だから買え!)」というメールばかりなのですが、唯一感心したのがディノスオンラインショップからのメールでした。
(そもそもいつなにを買うためにディノスのECサイトにアカウントをつくったのかもおぼえてないんだけど)
届いたメールの内容を抜粋します。冒頭から途中までです。
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インターネットでのお買い物をより安全に。より安心に。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━いつもディノスオンラインショップをご利用いただきまして、誠にありがとうございます。
ディノスでは、一年に一回、お客様がお誕生日を迎えられた機会に
パスワード確認のご連絡をさせていただいております。お誕生日などの推測されやすい数字は使用されていませんでしょうか。
パスワードの変更は、ディノスオンラインショップにて簡単に行えます。
この機会にぜひご確認ください。
▼パスワードの変更はこちら↓から
https://www.dinos.co.jp/defaultMall/sitemap/CSfSetPassword_002.jspログイン後、パスワード変更画面が表示されます。
※変更後も定期的にパスワードをご変更いただくことをおすすめ致します。
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バースデーeクーポン1,000円分ついて
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ディノスオンラインショップ会員の皆様へお誕生日当日に「eクーポン1,000円分」をプレゼントしております。
こちら↓から
こんな感じで「クーポンあげます」は中断以降に記載されているものの、メインはパスワード変更の案内(というかセキュリティ意識の啓蒙)となっています。
これはなかなかかっこいい。
もちろんパスワードは変更しまくればいいってものではありません。
むしろ各サービスごとに設定された強固なパスワードであれば変更なんてしなくていいし、ぼくはじっさいそうしています。1Passwordは便利!
ディノスのサイトには「パスワードは定期的にご変更ください」とあってそのあたりはヘボだし、16桁しか許容しないのもふざけんなと思います。
ただ誕生日という情報を「あんた、誕生日をパスワードにしてないか?」という案内に使うのは唯一許容されるやり方かもしれないなあと思いました。
まあいまどき正直にほんとうの誕生日を登録している人が何割くらいいるのかは知りませんけどね。
求人ってじつは不動産に似ている
いまから10年くらい前、ある特許を申請するために弁護士の先生に広告の仕組みについて説明してたんだけど、そのときに「ああ、なるほど、ようは不動産と同じってことだね」と先生がおっしゃったのがとても印象的でいまでもおぼえている。
つまり「かぎられた枠を売買する(おおむね需要と供給で価格も決まる)」という点で構図としては同じだと。
いわゆる本質論というやつで、それからはより一層「この新しげに見えるやつは、既存のなにと似ているのか」と考えるようになったし、その習慣はいまもつづいています。
それから数年後、「ああ、これこそ不動産と同じじゃないか」と思ったのが「求人(採用)」です。求人というのはまさにかぎられた枠を取り合う(売買じゃないけど)という点で、不動産と似ている。
そしてこのことに気づいたのとほぼ同じタイミングで「これいいな」と思ったのが、東京R不動産というサイトが実装していた「この物件に空きが出たらメールでお知らせするよ」という機能です。
ぼくのなかでこのふたつは別々の出来事なんだけど、同時にひとつのこととして受け止めた。なんでかよくわからないけど、まあ「ひらめく」というのはそういうことかもしれない。
そして「企業は求人ページに『現在求人中』の職種だけ掲載するのではなく、将来求人する可能性のある職種もぜんぶ掲載しておいて、いざ求人開始になったら見込み求職者にメールでお知らせする機能をつけたらいい」と考えるようになり、じっさいけっこういろんな人に話した気もする。
残念ながら当時のぼくが期待されていたのはマーケティングの領域での貢献だったので、この手の提案が受け入れられることはなかったんだけど。
でもいつか、もし、自分が会社をつくったり、どこかの会社で人事にかかわる仕事についたら実現しようと思ってた。
まさかほんとうに社長になるとは思ってなかったし、いまでもついつい忘れがちなんだけど(「団長」の自覚はあるんだけどねえ)。
じっさい転職ってタイミングがほぼすべてですよね。転職したいと思っても人事に空き枠がなかったり、企業側もけっきょく「さあ募集するか」と求人を開始してから見つけられるかぎられた人材の中から選ばなきゃいけない。
タイミングがほぼすべてだからこそ、できるだけこれをコントロールできないか考えたいんですよね。それも求職者にとっても企業にとってもメリットのある方向で。
引っ越しでたとえると、いつかここに住みたいなと思いつついまの家で暮らすのと、いざ引っ越しが決まってから次に住む家を探しはじめるのではぜんぜんちがうわけです。
いまは「とりあえず雑談しに来ませんか」みたいなカジュアルな(?)転職サイトもあるけど、ぼくみたいに人見知りな人間はそういうのはとても抵抗があるし、そもそもこのカジュアルさ自体がある種のリトマス試験紙になっていて、ぼくのような人間はまずフィットしないだろうなって思う。
前に「世の中には休みの日に会社の同僚とバーベキューする会社としない会社のふたつしかない」みたいな話をしたけど、いろんな会社があっていいと思う反面、前者の会社ばかりが紹介されたり、「いい会社」とされるのはどうにも違和感がある。
ああ脱線しかけてる。ダメだダメだ。
求人ページの話に戻します。
残念ながら攻城団合同会社はまだ社員を募集できるタイミングではないのだけど、今年からは(予算の許すかぎり)業務委託を中心に外部の方にどんどん手伝っていただいていこうと思っています。
そこで手伝っていただきたい作業の一覧を掲載して、協力者を募集するページを用意しました。
で、ようやく話がつながるんだけど、そこに「案件が掲載されたら(=ページが更新されたら)メールでお知らせする」機能をつけました。
将来的にはフリーランスの方や主婦の方や副業OKの会社の方など、100人くらいの方がいつでも手伝うよといっていただけうようなグループになればいいなと思っています。
ちなみにメールを送るシステムですが、かつてsmashmediaってブログを書いてた頃に「EBISU GIGS」って飲み会を不定期に開いていて、その「飲み会を開催するときにメールでお知らせする」機能をブログに用意していたのを再利用しました。
リユースは大事ですからね。あ、団員にメールを送る仕組みを自作する予定があるので、そのときにリプレースするつもりです。
ま、考え方としてはかつてぼくが考案した「入荷お知らせメール」と同じですね。ワンパターンというか。
じっさいのページはこちらです。お知らせメールの登録はもちろん、いますぐのご応募もお待ちしています!
スタンプメーカー「ポムリエ(pomrie)」で住所印をつくっちゃおう
細かい技術的なことはよくわかんないんだけど、スタンプシートを挿せば勝手にプリントされたのがデロデロって出てきます。
本体だけで5980円(STC-W10だと7980円)、さらにスタンプをつくるには必要なサイズのスタンプキットを買わなくちゃいけなくてこれがだいたい1000円くらいします。ね、ちょっと高いですよね。
カシオ スタンプメーカー ポムリエ Wi-Fi/USB対応特別セット STC-A-SET
- 出版社/メーカー: カシオ計算機
- 発売日: 2015/12/14
- メディア: オフィス用品
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おもしろいインタビューは過去ではなく未来を問う?
昨日の深夜、NHKで「SWITCHインタビュー 達人達」の再放送をやってたので見てたんだけどほんとおもしろい。漫画家の松井優征先生とデザイナーの佐藤オオキさんの回ね。
オンエア時に見逃してたからラッキーでした。
で、つくづく自分がこういった対談とかインタビューといったものが好きなんだなあと実感したわけなんだけど、なにがおもしろいかというと、「ある人がその場で考えを整理して言葉にする」という瞬間に立ち会うのが好きなんだと思った。それも一流の実績を残してきた方であればなおのこと。
当人がさほど(あるいはまったく)考えてこなかったようなことを問われて、「さて自分はその問題についてどう対処しているんだろう」と考え、相手に伝えるために言語化する。
すっとは出てこないこともあるけど、その「うーん」という表情も好き。そして「こうかなあ、いやちがうな」みたいな発言も好き。
そうやってさぐりさぐり、慎重に言葉を選びながらようやく答えた言葉にものすごく興奮するんですよね。
松井先生「何が好きなんだろうって言葉にできますか? デザインのなにが楽しいか」
佐藤さん「なにが好きなんでしょうねえ……、考えたことなかったなあ……、うーん、なんでしょうかねえ」
こういう時間ってじっさいテレビ番組ではカットされちゃうことも多いだろうし、紙面/誌面ではばっさり削られちゃうんですけど、ぼくはこの「みんなが待ってる」時間が好き。
問われて考えてる本人も含め、全員が何十秒とかの時間をただ待ってるだけ。
けっきょくこのあと佐藤さんは「期待されることなんでしょうね。ひたすら期待に応えたい、そのプロセスを楽しんできた」と答えて、さらに自分はなんでも楽しめちゃう、好きになれちゃうという話がはじまるんだけど、この自分語りを引き出したのは松井先生のふわっとした質問なんですよね。
ふわっとした質問は諸刃の剣で、相手をただただ困らせてしまうこともあるけど、相手とタイミングさえまちがえなければ問われたほうから感謝されたりします。
あなたのおかげで自分の考えを整理できましたってね。
こういうふたりのやり取りで「跳ねる」瞬間も好き。
佐藤さん「アイデアって硬度があると思ってるんですよ、硬さ。で、それをどのタイミングでどう固めていくのがいいかってのがけっこうポイントとしてあって、二次元の絵とか、スケッチとか、まだ柔らかくて、解釈の余地があるじゃないですか。それがたぶんアニメみたいな動画になっていったりとか、立体になったりとか、どんどん固まってっちゃうので、もう立体物になるとかなりアイデアって固まっちゃうんですよ」
松井先生「商品化されてしまうってことですね」
佐藤さん「そういうことなんですよ」
松井先生「その、わたあめみたいに広げる時間が長いほうが総面積が広がるみたいな」
佐藤さん「あああああああ、そういうことです! そこの、どのタイミング、ギリギリまで柔らかく保持できるか、その固めるタイミングっていうのがけっこうミソなのかなって気がします」
完全に通じたって感じが見てる側にも伝わってきてて(まあ視聴者にも通じてるかはわかんないけど)、佐藤さんの「理解者があらわれた!」ってテンションが上がったところとか最高でした。
まあこういうのは聞き手の問題が6割方あって、いい質問だからいい答え、いい反応を引き出せるってのはわかるんだけど、なんとなく思ったことがあります。
それは「過去を問う」じゃなく「未来を問う」ことを意識したほうがいいなってことです。
ぼく自身、これまでも取材としてインタビューする側に立ったことは何度かあって、それは成果物の都合上、基本的には「なにをやってきたか」を聞くことが大半でした。まあ確認作業ですね。
もちろんそのときに「(その当時は)どんなことを考えてたのか」という質問も入れるようにはしてたんだけど、この手の質問は相手の記憶をすくうだけで、深層の思考には到達できない。
たとえばこれが「もし次にやるならどうします?」と聞き方を変えるだけで、たぶん相手はあらたに答えを考え出さなきゃいけなくなりますよね。
いくつかの反省材料はきっとあるだろうから、それをどうやって改善するか、一度やってみたことでわかった課題や制約も踏まえて、現実的な落とし所として妥当なラインはどのへんなのかを猛スピードで考えながら答えを紡ぎ出すと思うんですよ。
いってみれば過去を聞いただけでは相手の「経験」しか聞けないんだけど、未来を問うことでようやく「経験値」を手に入れることができるというか。
よくある事例乞食みたいなのも同じ話で、過去しか見てないから「経験」コレクターになっていて、だから自分で実行する際にうまくアレンジできないし、結果、雑なパクリになって失敗する。
相手の「経験値」を拝借してこそ、スタートの条件をより有利にできるわけで、ここはもっと意識したほうがいいなあと思いました。
そういや、対談コンテンツが好きすぎてこんなのもつくってたんですけどね。
日本ではNPSの導入はむずかしいかもしれない
最近こういうメールが届くことはありませんか。
ついこないだもMediumから届いたのですが、これはDelightedというNPSを調査するためのASP(SaaSっていったほうがいいのかな)が送信するメールです。
NPSというのは「あなたはこのサービス(商品)を自分の身近な人に推薦しますか?」という質問から、サービスの支持率を測る考え方です。ようは「周囲にクチコミしたくなる」というのは強く支持されてるよねってことです。
一般的にサービスの評価には「顧客満足度」という指標が使われてきましたが、これは「自分が満足したか(気に入ったか)」を問うもので解約率との相関は強いものの、サービスの成長に関してはNPSのほうが適しているということで、ここ数年は海外のベンチャーを中心に採用する企業は増えています。
まあ詳しくはこのへんを参考に。
で、NPSは0点から10点までの11段階評価で回答してもらいます。
ポイントはこのうち9点と10点をつけた人だけがポジティブな評価になること、6点以下は批判的な立場として評価されることです。
勘のいい方ならお気づきだと思いますが、日本人は「ふつう」という感想を持ったときに5〜6点をつけることが多いですね。7点になると「ちょっといい」になりますよね。
だから仮に顧客が全員「ふつう」という感想を持っているとNPS的にはマイナスの結果が出ます。
また8点は「けっこういい(ときどき薦める)」という感覚の人が多いと思うけど、8点は中立の立場として評価されるので全員が8点の場合、NPS的にはプラマイゼロになります。
とまあこんなふうに日本人にはフィットしてないんじゃないかという疑念があったり(もともとこの11段階評価はアメリカの成績の基準にあわせたものです)、じっさい日本で実子されたNPSの公開データを見るかぎりほとんどがマイナスになってるので、実用性としてはどうなのかなあという意見もけっこうあります。
Delightedはトライアルで250通の調査依頼メールを送ることができるので、先日ぼくがやってる攻城団で試してみたところ、もうひとつ課題があることに気づいたのでシェアしておきます。
日本人特有ってこともないんだけど、たぶん日本人ではわりと強く影響が出ると思うので。
それは本人は満足してるし他人にも推薦したいんだけど、「友だちがいないから」という理由で低い点数をつける人がけっこういるということです。
攻城団は自分が訪問したお城を記録するサービスなので、「自分のまわりに城好きがいないので」と攻城団のことは評価していても「推薦できないから0点」とか「どっちでもないということで5点」という人がけっこういました。
(0点も5点もNPS的にはマイナスです)
マイナス評価になってる理由の大半が「身近に紹介する相手がいないから」なんです。
(協力いただいた団員のみなさん、ほんとうにありがとうございました!)
この結果を受けて、ぼくは「こりゃNPSを使うのはダメだな」と思ったんですよね。
日本人の謙虚な採点によって、NPSが全体的に低めに出ちゃうのは前回との比較とかでは問題とならないので許容できるんだけど、今回気づいた「紹介する相手がいるか」まで考えて回答しちゃう方がこれだけいると、出てきた結果の信憑性に問題が出ます。
平行して実施している利用者アンケートでは(まだ途中ですけど)「攻城団をほかの誰かに紹介したことがありますか?」という設問に対して、4割近い方が紹介したことがあると答えてくださっていることからもNPSの値が正しい結果を表してない証明になると思います。
もちろん日本でもNPSをうまく活用できるケースもあるとは思うんですけど、日本人相手ではむしろそっちのほうが特殊なのかもしれません。
もしなにかうまく活用されている事例をご存知だったら教えてください。
あとこれは余談ですけど、Delightedのようにいろんな会社のNPSが自社のデータベースに蓄積されていくとすごく価値のあるデータになりますね。
業界ごとの分析とかもできるようになるし、NPSが高い会社の株を買ったりとかね。
「漫勉」がおもしろいのは浦沢先生が見たいものをつくってるから
漫画家の作画風景、それも手元のアップを見たい、なんて発想は素人からはなかなか出てこないですもんね。じっさい最初この企画はボツにされたと番組でもおっしゃってましたけど、なかなかおもしろさがわかんないと思います。
「ふるさと納税」で赤字?
まあそうだよなあという感想しかないのですが。
福島県郡山市において、「ふるさと納税」で全国から受け付けた寄付金の総額(IN)よりも、市民が他自治体に寄付したことによる市民税の控除額(財源流出額=OUT)のほうが多かったという話。
ちなみに昨年度はマイナス7389万円だったとか。
ふるさと納税のおかしな点については多くの人が指摘しているとおりですが、最大の問題点は、資本主義の悪い部分を導入してしまったために、返礼品の豪華さを競う全国大会になってしまっていることがあげられます。
お米や牛肉などの特産品ならともかく、パソコンやiPadなどももらえたりしますからね。
寄付総額から返礼品のコストを差し引いたらいくら残ってるんですかね。
メディアの取り上げ方も株主優待と同じカテゴリで、「いかに得をするか」という切り口でしか紹介しないし、けっきょく地域格差や過疎の問題解消にはほとんどなんの役にも立ってません。アホみたいだけど。
記事の締めには
控除額の約75%は国からの交付税で補填(ほてん)される。市は「過剰な返礼品競争は行わない」とした上で、寄付者の満足度の向上のため返礼品の種類を増やすなど拡充を検討している。
とあり、マイナス7389万円の75%はけっきょく交付税で補填されます。
そして「返礼品競争はしない」といいつつ、打開策はそこにしかないので「返礼品の拡充を検討」という矛盾した話になっています。
ちなみに郡山市の現在の返礼品は「郡山市のブランド米・あさか舞」です。
たぶん牛肉とかが追加されるんだと思います。
税金の使途を納税者が自分で(ある程度)決められるというのは美しい話に聞こえるんだけど、現実としては納税者側は「いかに節税して得をするか」という基準で行動する人が大半です。でもそれはルールの中でやってることなんだから責めてもしょうがない。
一方の自治体側は、返礼品をかき集め、物品や礼状を送る手間が増えて、いったいほんとうに幸せになっている自治体は全体の何割あるんでしょうかね。
やめちゃえばいいのに。
無料で使うことの対価
ネットの場合は基本的に「無料だけど広告載せる」ですね。
媒体側の本音は「広告見てね」だし「広告クリックしてね」なんだけど、残念ながらそれは叶えられなくなっていて、だからネイティブアドが注目されたり、ネイティブアドもどきな誤クリック誘発広告が横行しているわけです。
ネット広告が救われない方向に進んでいる一方で、断固として「独立性を守るため広告を入れない」と戦っているのがWikipediaです。
まるで『あなたの暮し』です。「とと姉ちゃん」最高ですね。
ぼくは自分が「まんがseek」という分類としては似たサイトを運営していることもあり(これは自慢ですが「まんがseek」のコンセプトである「みんなでつくるデータベース」はWikipediaの一年前に考えて公開してます)、オープン当初からずっと注目してきました。
ふつうに利用者としても累計100万アクセスじゃ足りないくらい毎日のように使ってますし、お世話になってるし応援したいという気持ちから過去に何度か寄付の依頼に応えてきました。
ここまではいい。
公平・中立を維持するために広告を入れないというポリシーには共感するし、投げ銭的に運営資金を集めるのもとてもインターネット的だと思う。
だけどちょっと寄付の集まりが悪くなってきたのか催促がえげつなくなってきた。
ページのほとんどが寄付の依頼で、びっくりしちゃう。
さらにこんなメールも過去に寄付した人には届いているようです。
けっきょく広告を無視するか、年に数回の寄付の催促を容認するか、どっちを希望するかという話でしかないんですけど、ここまでウザいならAdSense貼ってもいいんじゃないのとか思ってしまうぼくがいます……。
[9月15日追記]
またメールが届いた。そして文面がより切実な感じになってる。
[9月28日追記]
自称「最後のメール」が届いた。ほんとに集まってないんだろうなあ。
熊本のことを忘れないために
基本的に人の善意というものは長続きしません。というよりも人の興味の賞味期限は短いといったほうが正確かな。
それが同情であれ、共感であれ、あるいは愛情や憎悪であってでさえ、なにもしなければ沈静化していくし、いずれは「無関心」になってしまう。
某乳食品の会社による集団食中毒事件、某洋菓子メーカーによる食品偽装、某ハンバーガーショップによる商品異物混入事件などなど、世間を騒がせた事件は毎年のようにありますが、いまでも記憶している人はどのくらいいるでしょうか。
ただね、ぼくはこの「人は忘れる」ことを悪いことだとは思っていません。それこそ再チャレンジ可能な社会を実現する土台は、こうしたぼくらの「どんどん忘れる」習性だったりすると思うからです。
とはいえ大事なことは忘れない努力をするべきだし、ときに震災などの復興支援については1日でも長くその気持ちが持続するように、関係者が思考し、努力すべきだと思うんです。
ここでいう「関係者」はなにも被災者のことだけではなくて、「応援したい」と願う人のことも含んでいます。
少し前段が長くなりました。
今回、ぼくらは熊本地震で被害を受けた熊本城の修復再建を支援するために、チャリティTシャツをつくりました。
このTシャツの販売で得られた利益(ようするに原価をのぞいた金額)はすべて熊本市に寄付します。
地震が起きたのは4月14日、そこから数日で日本赤十字社やCivic Force(シビックフォース)、ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)などで支援金・義援金などの募集がはじまりました。
Yahoo!ネット募金も立ち上げられて、ぼくも所有するTポイントをぜんぶ寄付したのをおぼえています。
避難所などで人のプライベートな部分に文字通り土足で踏み込むマスコミの振る舞いに非難も起きてましたが、彼らが連日報道してくれたおかげで現地の様子を知ることができたのも事実です。
ただこうした報道もどんどん少なくなって、いまではほとんどテレビで熊本の様子を目にすることはなくなりました。まあ神戸のときも東北のときも同じですし、こればかりはしょうがないんだと思います。
そう、しょうがない。
ここでマスコミに対してぷりぷり起こっても意味がなくて、彼らは彼らの論理で動いているわけで――ようはライバル局よりも視聴者ウケする情報・映像を探しては流してるだけ――それは変わることはありません。
インターネットのチカラ、ソーシャルメディアのチカラがそれを打ち負かしたり、代替できるなんてこともありません。そんな妄言を口にするのは夢想家かただのバカです。
でも、火を消さない程度の貢献はできると思うんです。
攻城団は影響力も微々たるものですから募金を呼びかけたところで大金が集まるわけでもありません。ふたりでやってるので大きなことができるわけでもありません。
だから「はやく」は早々に諦めて、ぼくらは「ながく」支援することを自分たちの指針にしようと決めました。
マスコミが報道しなくなってからがむしろ勝負で、「いまの熊本(熊本城)」を継続して伝えていこうと、そしてひとりでも多くの人が、一日でも長く、熊本城が倒壊したことを忘れないように発信していこうと決めたのです。
(じつは熊本に引っ越そうかと考えもしたのですが、それは無理しすぎなのでやめました)
とはいえできることなんてたかがしれています。
それでも定期的に訪問してこれまでに2回現地レポートを書いてきました。そして今回、みんなといっしょに行動するためにチャリティTシャツをつくりました。
たくさんの人にTシャツを買っていただけるとうれしいですけど、まずはこの記事を読んでいま一度、熊本に思いをはせる人が増えてくれたらいいなと思ってます。
詳しい経緯とか裏話的なのは攻城団のブログに書きました。
ポケモンGOは地方にとって迷惑なのか、アニメにはまちおこしの力なんてないのか
ぼくは自分で「攻城団」と「まんがseek」というサイトを運営していることもあってコンテンツツーリズムについてはその言葉ができた当初から関心があって、これまでも本を呼んだりセミナーに参加したりしていろいろと考えてきました。
先週、コンテンツツーリズム系で興味深い記事がふたつあったので紹介がてらコメントなど。
ポケモンGOは地方にとって迷惑なのか
そもそもスタンスとしてはネガティブな書き方の記事です。
鳥取砂丘を「県外からの観光客を呼び込もうとPRに懸命になっている。」と、大阪の千林商店街を「モンスター目当てで、多くの人が訪れるようにする取り組みで集客を図ろうと必死だ。」と紹介してますしね。
まあ懸命で必死なのは事実なのかもしれませんけど。
つづいて地方都市の実情として、観光協会幹部の談話が紹介されています。
ある地方都市の観光協会幹部はこう話す。
「ポケモンGOは観光客を呼び寄せる仕掛けにはなっていると思います。ただ、それが経済効果になるかといえば、そこは疑問です。ポケモントレーナーの多くは、スマホ一台で来ますし、現地で遊んでいくわけでもないので観光客と呼んでいいかも疑問です。トレーナーは現地に足を運んでも、目的はポケモンGOなのですから日帰り客も多い。そうなると、宿泊が伴わないので地元への経済効果は薄い。地元の飲食店やお土産店で消費してくれるかといえば、これも怪しい。そもそも、地方の商店は東京のコンビニエンスストアほど品揃えもよくありませんから、東京から来るトレーナーたちはコンビニでおにぎりやパンを買い込んでから来る人も多いです」
断言するけど、人が訪問しているのに経済効果にならないとしたら、それは受け入れ側の問題です。
なぜ「おにぎりやパンを買い込んでから来る」のか、考えてみたことはあるのでしょうか。店がないからです。あるいはあることがわからないからです。出かける前に現地の飲食事情がわからないから、予防的に買い込んでいくだけのことです。どっちに責任があるのか。
そもそもインタビューする側もされる側もポケモンGOやってないはず。
やってる人ならわかると思うけど、大半の地方はポケストップがないので人は来てないはず。もし来てるなら、それはレアなポケモンが出るからです。
じゃあ自分らのエリアではどんなポケモンが出現するのかを発信してるんでしょうか。ツイッターアカウントを用意して、「かくれているポケモン」をキャプチャして「このへんには○○がよく出ますよ」と定期的にツイートすればいい。
(うちの近所の状況。さすがにこれじゃ誰も来ないけど)
公園とかは毎週ポケモンがシャッフルされるようになったらしいので、レアなポケモンが出るぞってタイミングにはきっとシェアされます。
来てくれた人がお金を落とさない?
この暑さなら凍らせたペットボトルでも冷やした手ぬぐいでも売れます。駅前でおにぎりと冷たいお茶をセットにして500円で売れば買う人は多いはず。
(その際、手にごはん粒がつくとスマホをさわりづらいのでおてふきつけるなり、おにぎりはラップでつつむなりの配慮はしてあげて)
ぼくは城めぐりで全国各地を訪問してきました。そして、できるだけ地元のお店にお金を落としたいと思ってるんだけど、現実としてなかなか悩ましい問題もあります。
たとえばトイレを貸してくれるのがコンビニだけで、だったらトイレだけ借りるのは悪いからとなんか買いますよね。あるいは、ごはんを食べようと思っても店主と常連さんが話し込んでて入りづらいとか。
アウェイ感が強すぎて、もういいやコンビニで(ファミレスチェーン店で)ってなったことは何度もあります。
旅行代理店にも聞いてます。
「バスや飛行機、鉄道のチケットは個人がインターネットで手配するのが当たり前になってきているので、ポケモンGOが大ヒットしたからといって、旅行代理店が活況になることはありませんね。そもそも、ポケモンGOでわざわざ地方に足を運ぼうなどという人はいるのでしょうか。東京の渋谷や秋葉原、新宿などには無数のポケストップがあります。地方に行くよりも、東京のほうがポケモンGOには向いています。逆に地方から渋谷や秋葉原に行く人たちは、増えていると思いますが、こうした人たちも旅行代理店など使いませんし、ホテルに宿泊するのではなく、寝泊まりはネットカフェで十分という人たちが多い。とても、代理店が取り込める層ではありません」(大手旅行代理店関係者)
この方はポケモンGOをやってますね。
都心部のほうがポケストップが多いことをよくわかってらっしゃる。
でもぼくだったらレアなポケモンをゲットしまくるバスツアーが組めないかを考えますけどね。
じっさいにできるかは調べてみないとわからないけど、たとえば朝から晩まで首都圏の公園をまわってポケモンを集めるとか。バスで充電できるようにすれば、ツアー客は集まりそうなものだけど。
ポケモンGOを数日やればわかることとして、電源とWi-Fi、それに暑さ対策が課題なわけです。
だから充電できる場所を用意したり、自由に使えるWi-Fiスポットを用意すればかなり喜ばれます。その上で飲食店だったらルアーモジュールを使えばいい。それだけポケモンGOに理解を示していることを態度で表明すればアウェイ感も薄れるから、待機してポケモンを狩るためにお店に入ってくれますよ。
アニメ系のコンテンツツーリズムもそうだけど、「来てもお金を落とさないから意味がない」ってのはぜったいにいっちゃいけない言葉です。
観光施策って人を呼ぶのがもっともむずかしいことで、それと比べれば来てくれた人にお金を使ってもらうことなんていくらでも工夫できるでしょう。
あとこれは余談になるけど、自分らはどのくらい人数まで呼び込めるのかというキャパもわかっとかないと竹田城みたいになる。
キャパを超えた際にただ禁止にするだけじゃなく、どういうお願いをして、どうやって折り合いをつけていくのかを考え実行することこそが、いちばん問われていて、幸か不幸かほとんどの自治体が対応できてないからこそ、率先して協調していけばいいと思うんだけどね。
そういう意味では鳥取県とか佐賀県は積極的にブームと関係性をつくって乗っかろうとしているし(べつに作品の舞台になるだけがコンテンツツーリズムではない)、ネット上の反響などをチェックするかぎり、ファンにもおおむね受け入れられているように見えます。
アニメにはまちおこしの力なんてないのか
アニメ「ガールズ&パンツァー」(通称「ガルパン」)の舞台となったことでいまも多くのファンが聖地として訪問している茨城県大洗町。
ぼくは見てないですけど、近年におけるコンテンツツーリズムの最大の成功事例として紹介されることも多いです。
その「ガルパン」担当プロデューサー、バンダイビジュアルの杉山潔さんのインタビュー。インタビュアーはまつもとあつしさんです。
先に書いておくと、このインタビュー記事はめちゃくちゃおもしろいし、核心をついたやり取りがなされているので、ぜひ全文読んでほしいです。
その上で、ぼくがポイントだと感じたところをおさえると、まずこの作品は当初から大洗町を有名にしたり、観光客であふれるようにするためにつくってないという点です。そもそも大洗に決まったのは偶然だったようですしね。
というか、大洗は「ガルパン」の舞台になる前から県内有数の有名観光地だというのも見逃しちゃいけない点です。
そして成功するかどうかわかんないので経済効果とかはなんにも約束できないし、アテにもしないでくれということを大洗町に正直に伝え、それでも大洗側のキーパーソンである常盤良彦さんは、「面白い事さえできればいいので、我々は経済効果を求める気はまったくない」「これについてはまずごく小さなプロジェクトチームを組みます。気心が知れていて、失敗したら『ごめんね』って言える範囲からスタートします」と協力を約束してくれたそうです。
杉山さんの誠実さ、そして常盤さんの行動力。
もちろん大洗側にまったく期待がないわけじゃなかったと思うけど、こういうのは博打だということをよく理解していて、だからこそ前に進んだわけですよね。
でもじっさい多くのケースでは事前に数字(何人呼び込めるのか?)を約束させられたり、あるいはでまかせの見込み観光客数を持ちだして協力を要請するなんてことがあるんじゃないかな。
けっきょくそういう関係性はもろいのですぐに破綻しますよね。
少しだけ杉山さんの発言を引用します。
我々は経済効果に変えるためにやるわけではないので、そこは絶対に踏み外さないようにしましょう、と。「コンテンツには必ず終わりが来るので、コンテンツにばかり寄りかかっていると、なくなった途端また元に戻っちゃう。次に皆さんがやったほうが良いことは、いま来てくれているお客さんに“大洗のファン”になってもらうことですよ」と、町長にも直接言っていたんです。
基本的にわたしは(アニメ)コンテンツでまちおこしとか地域復興はできない、と思っています。なぜかというと、普通に考えればよくわかるんですが、たとえば深夜枠のアニメーションって(放送は)夜中の2時とか3時じゃないですか。視聴者層がものすごくセグメントされています。ほとんど男性のアニメマニアしかいないわけです。
そういう枠の特性がある上に、視聴率1%取れば成功と言われます。ドラマみたいに10%は要らないわけです。深夜で、視聴率1%で、セグメントされた人たちが見ている作品を、1クール12本・30分放送して影響力があると思いますか?
ない、と思うんです。よくコンサルの人たちが“コンテンツツーリズム”って言いますが、後付けならわかりますけれど、コンテンツツーリズムを前提に、行政を巻き込むのは(わたしは)すごく反対なんです。
もう一箇所だけ。
結果として、移住者が増え、週末ごとにファンがやってきて楽しみ、おカネを使ってくれるということがまちおこしだと言えば、まちおこしだと思いますが……。“興し”という言葉って意図的なものだと思うんです。意志がそこに感じられるんですよね。だからそういう意味では違和感はありますね。
大洗って、もともと観光地で、ホスピタリティーが高く、年間を通じてイベントが多いんです。いろんな仕掛けをしてお客さんを誘引する努力をしてきた町なので、ガルパン1つに町の命運を委ねる気はないと思います。
コンテンツツーリズムは狙って結果を出せるのか。出せるとしたらそれは打率でいうと何割なのかってことです。
またそのコンテンツツーリズムも、ありものに乗っかるパターンと、ゼロからつくるパターンがあって、それぞれ難易度がちがうのに、ここを曖昧にしたまま「コンテンツツーリズムの可能性」を主張する人が多いんですよね。
鶏卵問題(鶏が先か卵が先か)でいうなら、受け入れ側の大洗町は観光地としてのホスピタリティがもともとあって、そこに「ガルパン」というきっかけがうまく作用してブームが「持続」したということですね。
ぼくはコンテンツツーリズムというのは結果(事実)を分析し、検証することはできるかもしれないけど、意図的に成功させることはほぼ不可能だと思ってます。
これはクチコミマーケティングのときと同じです。それなりの条件・状況を整えることまでが精一杯で、そこからうまく立ち上がるかは偶然の要素がめちゃくちゃ大きい。そこを隠して、あるいは軽視して語られることが多いです。
だからコンテンツツーリズムに対するぼくのスタンスは、研究対象の「学問」としてはいいけど、実利を求める「マーケティング施策」として扱うのは反対です。
まとめ
アニメに頼るとか、中国人の爆買いに頼るとか、これから数年はオリンピックに頼るなんてのも出てくるだろうけど、そういうのは刹那的なものだし、中長期的にはほとんど貢献できません。
杉山さんの発言にもあったように「コンテンツには必ず終りが来る」ので。
もちろんぜんぶに速攻乗っかっていくという戦略はアリだし、正しいと思います。
最近だと佐賀県はそこを意識して取り組んでいるように見えます。「おそ松さん」が流行れば即効コラボして「さが松り」を開催するとかね。
来た波に乗る、できれば少し増幅できないか考える。これって大変ですけど、自分たちでゼロから考えなくていいというのは利点です。合気道みたいな感じですね。
そういうショートスパンの取り組みを延々つづけるやり方と、ひとつの魅力をじっくり育てて長期的な観光誘致策としていくやり方があるとしたら、後者は「スタービレッジ」としてブランディングに成功した阿智村のようなケースですね。
ぼく自身は後者のケースがもっともっと全国で増えていって、国内旅行の目的地選びに困るような状況が生まれるといいなあと思ってます。
行動を喚起する文章
セミナーで講演する仕事で博多までいったので、そのまま熊本に一泊してきました。
熊本地震で甚大な被害を受けた熊本城の状況を定期的に訪問してレポートしようと思っていて、いい機会をいただけたので。
東京に戻って、翌日にさっそく書いたレポートがこれです。
ぼくがこうしたレポートを書くときに意識しているのは「現地にいったような気持ちになる文章」ではなく「現地にいきたくなる文章」を書くことです。
なかなか実現できているとはいいがたいんですけど、あくまでも目標はそこにある。もうかれこれ10年近く試行錯誤してるけどまだまだです。
沢木耕太郎を薦められて読んだりもしたけど、たぶんあれはウェブ向きの文章じゃないと思うんですよね。
いまのところまちがいないなと思うのは「写真のチカラを最大限に活かす」ってことなんだけど、これがなかなかバランスがむずかしくてただきれいな写真を並べればいいってもんでもない。
それこそ「見ただけで満足」になってしまうから。
自分の目で見たいと思うような写真、あるいはそれを紹介する文章がないと人の行動を喚起するまでには至らない。
そういう意味では「食べる」とか「温泉が気持ちいい」とか、体験の紹介はいいですね。現地にいかなきゃ味わえないから。
(まあ最近は全国各地の郷土料理すら都内で食べられたりするので、その貴重さは失われつつあるんだけど)
注目を集めるだけならおもしろい文章を書くだけでいいんだけど(まあそれもめちゃくちゃむずかしいんだけど!)、その先の行動まで促すような文章を書くにはどんな努力をすればいいんですかね。
こういうことを意識して書いてるよって方がいたらぜひお話を伺いたい。というかいろいろ教わりたいです。
歓迎される広告、ウェブメディアのスポンサードの可能性について考える
ぼくが運営している攻城団にメディアスポンサー制度をつくりました。
そのときにいろいろ考えたことをメモしておきます。
感想コメントも聞きたいですけど、さらにこれを発展させて「こんなのやったら」というアドバイスをいただけたらさらにうれしいです(半ばそれを期待して書いています)。
なんとなくの前提
いまのウェブメディアの大半は無料で閲覧できるわけですが、それは広告収入で運営されているからで、利用者にしてみれば「広告はジャマだけど無料で使うからしょうがないか」と、いわば広告主の存在を必要悪みたいにとらえてますよね。
ネイティブアドが「枠」の話だといって、コンテンツに溶けこむように表示しても根本的にはなんにも変わってないです。というか「枠」の話に集約してしまうと「わかりやすいジャマな存在」から「わかりにくいジャマな存在」にシフトするだけで状況はさらに悪化します。
そこからは共感や支持につながるとは思えないんだよね。ぼくとしては広告はあくまでも「最愛」につながる一歩にしたい。
もちろんネイティブアドにせよ、コンテンツマーケティングにせよ、コンテクストやTPOを重視して、内容でもって読者の支持を獲得することを考えていて、その有益な内容がただ広告というだけで無視されるという現実を打開するために「なじませ」「溶けこませ」ようとしていることは理解しています。じっさいにはそこまで考えてるのは少数派でしょうけどね。
むかし昔……
ぼくが小学生の頃、ファミコンのディスクシステムのゲームで「帰ってきたマリオブラザーズ」というのがあって、それを永谷園がスポンサードしてたんです。
ロード画面に広告が出て、そのおかげでディスクの書換料(=ゲームの価格)が通常より100円安い400円になってました。1988年のことです。
30年近く経ったいまでもおぼえているくらい、子ども心にインパクトがありましたし、永谷園にはそれ以来ずっと好意的な印象を持っています。
あるいは大学時代にハマったスーパーファミコンの「ファミスタ」では球場の看板に「きりり」「午後の紅茶」などキリンビバレッジ(KIRIN)の実在する商品の広告が表示されていました。
いまではこういうゲーム内広告ってのは当たり前になってますし、とくに看板のようにリアリティを強化するような広告はユーザーにも歓迎されていますが、当時は「うまいなあ」と感心したものです。これは1995年発売ですね。
ゲームというコンテンツを安価で提供するかわりにつつましい感じで宣伝したり(ロード画面はどちみち遊ぶために必要な時間なのでうまいですよね)、リアリティを増してよりおもしろくするために企業の協力を得る(=広告的な座組で実現する)というのは、なにも新しい話ではないんですけど、ウェブの世界でももっと事例が増えていけばいいなと思います。
こういうのは「歓迎される広告」としてうまく共存できるんじゃないかな。
理想的なスポンサード
また理想的なスポンサードのモデルとしては、ディズニーランドのアトラクションのスポンサーとか、オリンピックのスポンサーとかがありますね。
けっして目立って露出しているわけじゃないですけど、気づいたらその会社に対して好意をもつような。
チャンピオンズリーグとハイネケンとかもCMは流れるけど、そのCM自体がサッカーファンを想定したものになっているので「こっち側」の感じがすごくしますよね。
あとは過去にも何度か書いてきましたが、ぼくが小学生の頃にセルジオ越後さんが全国をまわって開催していたサッカー教室。あれはコカ・コーラ社がスポンサードしていて、ぼくらは最後にコーラのロゴが描かれた赤いタオルをもらうんだけど、10年以上ボロボロになるまで愛用してたし、いまでもいい思い出です。
メディアがもっと「広告主と利用者を同じ側に立たせる」ために何ができるかを考え、実践することができたら、それはメディアを中心としたエコシステムにまで発展させることができるんじゃないかと思ったりします。
スポンサーを同志として、仲間として紹介することで、「俺たちが愛用してるサイトを支援してるこの会社いいね」と、ポジティブな印象を持ってもらえるようにしたいのです。
そんなこんなで
インターネット広告はいまもどんどん開発・改良されていて、たとえばツイッター広告とかって新しいですよね。
広告クリエイティブに「いいね」したり、RTしたりとリアクションができるのはすごくいい。そもそもブロックできる広告なんてすごい未来感があると思いませんか。
そういうテクノロジー手動の広告の未来にも興味を感じつつ、いまの自分にできることとして、攻城団では「スポンサードによる広告主と利用者との関係性の再構築」にちょっとチャレンジしようと思ってます。
それだけですべてをまかなうには大変かもしれませんけど、広告でも課金でも物販でもなく、企業や利用者による任意の支援(スポンサード)によって運営されるメディアが現実的に可能であること証明できたら、もっとネットが楽しくなるような気がします。
(そして少しだけ浄化されるような気もします)
ウィキペディアは寄付で成り立ってる最強かつ最大の事例ですけど、あそこまでの規模じゃなくても「便利なサイト」や「楽しいメディア」が「なきゃ困る存在」として経済的に自立できたら素敵だと思いませんか。
攻城団のメディアスポンサー制度についてはこちらをご覧ください。アドバイスもぜひお願いします。
自治体の悪ノリPRははたして有効なのか
世の中には「悪評も評のうち」とマジメに考える人が、あるいは「好きの反対は無関心だから知ってもらってたとえネガティブでも反応があったほうが良い」と考える人が少なくなく、それがいわゆる炎上マーケティングの根拠にもなってたりするんだけどはたしてほんとうにそうなんでしょうかね。
東京都西多摩郡にある瑞穂町のPRとして、伊藤大輔さんが観光PR記事を書かれていました。
ぼくはそもそも記事の存在を知らなくて、それを読んだ方が「ひどい」と書かれてるブログがツイッターに流れてきたのを見て知ったんですけど、まあひどい記事かはさておき、なんというか中指立てた感じの記事でした。
(元記事は差し替わってるそうなので、魚拓にリンクしておきます)
こうした自治体のゆるいPR――はっきりいえば、おふざけ・悪ノリPR――はいつからはじまったんでしょうか。
うどん県は2011年から
香川県が要潤さんを起用して「うどん県」のPRをはじめたのが2011年です。
翌年には大分県が「おんせん県」として商標登録申請して群馬県や静岡県と軽くもめたり、さらに翌年には岡山市が「桃太郎市」に改名するとして(もちろんジョークとしてのちに撤回)PRサイトを公開しました。
自治体 | PR | 開始年月 |
---|---|---|
香川県 | うどん県 | 2011年10月 |
大分県 | おんせん県 | 2012年8月 |
岡山市 | 桃太郎市 | 2013年1月 |
ほかにも別名をつけたわけじゃないけど「おしい!広島県」というキャンペーンもありましたね(2012年3月〜)。
最近はぼくが好きな歴史界隈にもこの手の流れがきていて、滋賀県が石田三成を起用しておもしろPR動画をYouTubeにアップしています。
「すでに記憶は薄れかかってたけど、ぜんぶ見たなあ」という方も多いと思います。
こうしたPR手法を評価する際に、「好き/嫌い」と「有効/無効」はわけて議論すべきですね。
なのでひとまず客観的なデータとして、その前後の観光客の推移を出してみました。出典は観光庁が集計している「観光入込客数」の数字です。
グラフは「日本人・観光目的」かつ「県外・宿泊」を取り出しました。都道府県単位のため、岡山市のかわりに岡山県を入れています(岡山市の数字については後述)。
なお単位はすべて「千人(千人回)」で実人数です。
2010年 | 2011年 | 2012年 | 2013年 | 2014年 | |
---|---|---|---|---|---|
香川県 | 1,147 | 1,166 | 1,300 | 1,264 | 1,408 |
大分県 | 2,758 | 2,746 | 2,624 | 2,604 | 2,416 |
岡山県 | 1,417 | 1,440 | 1,409 | 1,413 | 1,497 |
広島県 | 1,651 | 1,636 | 1,804 | 1,766 | |
熊本県 | 2,389 | 2,428 | 2,408 | 2,528 | 2,427 |
岡山市については市のサイトに観光統計情報がありました。
こちらは「延べ人数」となっており、基準が異なるため同一の表・グラフに入れていません(単位は「千人」です)。
2010年 | 2011年 | 2012年 | 2013年 | 2014年 | |
---|---|---|---|---|---|
岡山市 | 5,313 | 5,632 | 5,837 |
効果はあったのか
数字を見るかぎり、「うどん県」は増えてるような気もしますね。
ただこれは「うどん」そのものがテレビ等で紹介される機会が増えたためでしょうね(でもそのブームを起こすきっかけとして「うどん県」PRをはじめたわけだから、正しく効果を発揮しているといえますね)。
Googleトレンドでは2011年以降、きれいに右肩上がりです。
「うどん県」を打ち出した10月より前から上昇傾向にあるので、「うまくブームに乗っかって加速させた」という解釈のほうが正しいのかもしれないです。
ちなみに映画『UDON』は2006年8月の公開です。
多くの方の予想通り、大きなプラス効果はありません。ただ大きなマイナスもないという点は認識しておくべきですね。
もちろんお金は使ってるわけで、損得でいえば「損した」という評価になるかもしれませんけど、明らかなマイナスを証明できない以上、「お金をドブに捨てた」と断じるのはむずかしいと思います。
他の要因が強すぎるんでしょうね。
たとえば参考として入れた熊本県ですが、「くまモン」の登場は2010年3月です。くまモンかわいいですよね。大好きです。だけど、翌年(2011年3月)開通した九州新幹線のほうが観光客数への影響ははるかに大きいわけです。
ではなぜ、たいして効果が期待できない悪ノリPRは止まらないのか。
これはローリスク・ハイリターンな施策だと認識されているからかもしれません。じっさいのところハイリターンかは微妙ですけどね。少なくともスベったとしても、それで何百通・何百本かのクレームが入ったとしてもダメージはそのくらいで、マスコミでの紹介を考えればお得だと見られてるんでしょうね。
いまだにPRの世界では「広告換算値」がKPIとして使われていますが、たしかに数千万で作成したサイトが、数億円換算の露出になると考えれば手を出す人があらわれつづけるのも納得です。
じゃあまあいいか、無視しとけば。
もやもやするけど、今日はここまで
とは思うものの、いまいち釈然としないもやもや感も残るんですよね。
AIDMA/AISAS、そこから切りだされた「アテンション・エコノミー」的な考え方からすると、たしかに「知ってもらわなきゃ売れない」以上、きっかけはなんであっても「まず知ってもらう」ことは重要です。
でもそれは相手が加点法で評価してくれれば挽回のチャンスがあるけれど、減点法で評価されちゃうと第一印象がマイナスなら永遠にマイナスのままなんだよね。
(そして比較が簡単なネットでは基本的に減点法が主であることはみんな自覚してるはず)
香川県の「うどん県」がうまくいったように見えるのも、もともと「香川=うどん」という共通認識が受け手側にあったことが大きいでしょうし、ほかと比べてもおふざけの方向性が誠実っぽい気もします。マジメにふざけてるというか。
ダメだ、ぜんぜんまとまらん。
数字拾ってグラフを作成したり、もう2時間くらいこの記事にかけてるのでひとまずここまでにします。
瑞穂町、あれでよかったのかね。
[追記]
似たような構造の話として、マンガ原作のアニメを実写化(ドラマ化・映画化)する際、見ているのは原作ファンではなく、その向こう側にいるマスだからギャップが生まれるのは当然というのがあります。
原作ファンは「原作ぶち壊しだ!」と怒るけど、未読の人たちにとっては単純にひとつの作品としておもしろいかどうかが問われるので、原作の忠実度合いとか、作り手の原作愛すらどうでもいいと。
なのでとくにエンタメの分野では、不満をのべる人は一定数いることは織り込み済みで、ある程度振り切ったほうがいいんだという考え方もありますね。